エヴァンゲリオンのストーリー解説

 

1.はじめに


エヴァンゲリオンのストーリーは、キリスト教やユダヤ教の伝説がいろいろと利用されています。誰でもアダムやエヴァ(イヴ)、知恵の実などの事は聞いたことがあると思います。

エヴァンゲリオンでは、他にもロンギヌスの槍、生命の木、など、重要な設定が用いられています。ある程度物語を理解しようと思ったら、これらの用語・設定についても知っておいた方が楽しめます。まずは、そのへんを簡単にまとめてみます。

 


「エヴァを理解するために、最低限必要なキリスト教の知識(旧約聖書創世記とエヴァのセリフの対応)」


人類の誕生は、アダムが作られ、アダムからエヴァが作られたことから始まります。


 * 21話ナオコ「アダムより人の造りしもの、エヴァです」


しかし、エヴァはアダムとともに禁断の知恵の実を食べてしまいます(これが原罪です)。

 * 12話ゲンドウ「(セカンドインパクト後の南極を見て)だが、原罪の汚れなき、浄化された世界だ」
 * DEATHゼーレ「自ら贖罪を行わねば、ヒトは変わらぬ」


その結果、アダムとエヴァは、知恵を獲得するとともに、自分を自分として、他人を他人として認識し始め、あわててイチジクの葉で体を隠します。

 * 17話ゲンドウ「その最も弱い生物が、弱さゆえに手にいれた知恵で作り出した、人類の楽園だよ」
 * イチジクの葉については、
「NERVマークの意味は?」参照。


神は、人間が、知恵の実を食べた上に、生命の樹まで手に入れるのではないかと恐れ、彼らを楽園から追放します。

 * 17話ゲンドウ「かつて楽園を追い出され、死と隣合わせの地上という世界に逃げるしかなかった人類。」
 * 生命の木については、
「生命の樹とは?」参照。

 
なぜなら、知恵の実と生命の実を両方手に入れると、人間は神と同等の存在となるためです。

 *26話冬月「使徒の持つ生命の実とヒトの持つ知恵の実。その両方を手に入れたエヴァ初号機は神に等しき存在となった。」


そして、知恵の実を手に入れた人間が、生命の樹に近づけないように、化け物を配置し、人間が生命の樹に到達しそうになったら攻撃するように命じました。

 
 *11話レイ「人は闇を恐れ、火を使い、闇を削って生きてきたわ」
     アスカ「てっつがくぅ」
     シンジ「だから人間って特別な生き物なのかな?だから使徒は攻めてくるのかな」
 *化け物については、
「シトとは何か?」参照。



(以上、旧約聖書創世記とエヴァのセリフとの対比です。なお、旧約聖書の出典および、より詳細な引用内容については
「旧約の設定がエヴァの世界で生きていることの確認」を参照。また、これ以外のものも含め、エヴァとキリスト教との包括的な関係については、「エヴァンゲリオン引用辞典(現在作成中)」を参照。)


 


2.エヴァンゲリオンの物語設定


<エヴァンゲリオンの世界観>
エヴァンゲリオンにおいては、基本的に上記のような世界観がベースとなっております。つまり、人間とは原罪を背負った問題のある生き物なのです。では、人間はどうすれば、このような状態から抜け出せるのでしょうか。

案1.知恵の実を食べた原罪から開放され(贖罪)、全てが一つであった幸福な状態な状態に還る。


 * DEATHゼーレ「自ら贖罪を行わねば、ヒトは変わらぬ」
 * 26話ゼーレ「われら人類に福音をもたらす、真の姿に」
 


案2.逆に、知恵の実の力(科学)を最大限に発揮し、人間自身の力で人工的に欠陥を補って新たな生物となってでも生きていく。最終的には生命の実も手に入れ、神へと進む。

 *25話ゲンドウ「人は新たな世界へと進むべきなのです。そのためのエヴァシリーズです。」
 *24話キール「だが、神に等しき力を手に入れようとしている男がいる」


1がゼーレの考えです(詳細は
「ゼーレ思想の真実」参照)。


2がゲンドウの考えです(詳細は
「ゲンドウ思想の真実」参照))。


それぞれの場合の実現方法は以下のとおりです。


<ゼーレ案の場合>
人間を原罪から解放し、始源の楽園へと回帰しようとします。それにはどうしたらよいでしょうか。
キリスト教の伝説によれば、神の子を生命の木で作られた十字架にはりつけ、処刑し、その血を大地に垂らす事によって人間の罪は償われます(これが贖罪の儀式です)。

 *26話キール「今こそ中心の木の復活を」
 *26話きール「ロンギヌスの槍もオリジナルがその手に帰った」
 *26話ゼーレ「では、儀式を始めよう」


この計画を達成するには、まず、生命の木が必要です。それから、処刑のための槍(ロンギヌスの槍)も必要です。また、神の子に従う者が12必要です(いわゆる12使徒)。これに処刑される者自身を加えると、神の子に死をもたらす13という数が揃います(
「13体のエヴァ」参照)。

予定通り原罪から解放されると、人類が原罪を背負う以前の状態(生命の始源=リリスの卵)に回帰することが想定されます
「二つのガフの部屋について」参照)


 *26話キール「はじまりと終わりは同じところにある。よい、全てはこれでよい。」
 

 


<ゲンドウ案の場合>
まずは生命の木を出現させて、生命の実の力を手に入れ、知恵の実と合わせて、神に等しい力を手に入れようとします。
つまり、原初の状態に戻るのではなく、人類が、新しい段階に進化することを目指しています。

 *21話ゲンドウ「かつて誰もがなしえなかった神への道だ」
 *26話冬月「知恵の実と生命の実、その両者を手にいれたエヴァ初号機は、神にも匹敵する力を得た」

これは神に逆らい対決するという、悪魔的状況に身を置くことも意味します。人類も使徒であるので、最終的には人間自身が邪魔するはずです。

予定通り行けば、使徒を倒し、生命の樹を出現させたあと、レイを媒介にしてEVA(ユイ)と融合し、神の力をもつ単体として生き残ることが想定されます。


 


3.物語の進行


<両者の協力過程>

どちらも人類補完計画(人類が原罪から解放されるための計画)ですが、目指す方向は正反対です。ただ、どちらにせよ、生命の木の発見がキーワードとなります。そのプロセスが記載されていたのが、裏死海文書です。また、先ほどあげましたように、旧約聖書に記されている、生命の木を守る化け物(シト)を倒す必要もあります。
これらのためには、

@ 裏死海文書の解読
使徒および生命の木出現のメカニズム理解が可能となりました。また、ガフの部屋やロンギヌスの槍の発見もこれによります。

 *23話ゼーレ「ついに第16の使徒までを倒した」
     ゼーレ「これでゼーレの死海文書に記述されている使徒は、あとひとつ。」
     ゼーレ「約束の時は近い」
 *裏死海文書については、
「死海文書とは?」、および「オープニング最後のシーン」参照

 


A セカンドインパクト

シト殲滅に先駆けて、シトの生命の源たるアダムを卵(白き月)に還元するため、ロンギヌスの槍を使用します。ロンギヌスの槍とはデストルドーの機能を持つためです(始源に回帰させる力がある)。
しかし、そのための条件であるヒト遺伝子との融合により、予想値を超えたアンチATフィールドを放出してしまいました(知恵の実と生命の実の融合=神の力であるため)。ここで、いざという時のためにリンクさせていた爆薬により、アダムは爆発します。そして、白き月も破壊されます。これにより、セカンドインパクトの同日生まれである渚カヲルを最後に、シトは誕生できなくなります。

 * 詳細は「セカンドインパクト」および「ロンギヌスの槍の機能」参照


B アダム計画およびE計画

これらの計画は、シト殲滅および人類補完計画(贖罪の儀式)のどちらにとっても欠かせないものです。当初は、アダム計画=E計画でしたが、後に分離しました([アダム・エヴァ・リリス]参照)。

[アダム計画]オリジナルアダムの復元計画です(「アダム計画」参照)。エヴァンゲリオンの製造(E計画)に利用することもありますが、もともとは、ゼーレは贖罪の儀式にオリジナルアダムを使用する計画も持っていました。しかし、ゲンドウは自分の補完計画のために、かってに利用することになります。

[E計画]シトを殲滅するとともに、儀式を行うのに必要な12体のエヴァンゲリオンを作成するプロジェクトです(「13体のエヴァ」参照)。アダムの再生計画が進むまではリリスが利用されていました。アダム再生計画が軌道にのった弐号機以降はアダムを利用して製造されました。


C 使徒の殲滅

これが、生命の木を出現させる条件です。エヴァ初号機などの活躍により達成されました(1話〜24話)。
ゼーレにとっては贖罪の儀式を行うために不可欠であり、ゲンドウにとっては生命の実を入手するために不可欠です(もっとも、実際にはそれ以前からエヴァ初号機はS2機関を入手しますが)。


*24話キール「約束の日はその日となる。」


これらの点をもとに、牽制しあいながらも(ロンギヌスの槍、S2機関、NERVの対人防衛システムなど)生命の木に到達するためゼーレとゲンドウは協力して使徒を倒しつづけます。

 


4.物語の収束


<両者の決裂と終局>
 最後のシ者(
渚カヲル)を倒した瞬間、完全な敵対関係に入り、生命の樹を巡って争います。ゼーレとしてはパイロットはあらかじめ排除したかったのですが、ミサトの努力によりシンジの搭乗を阻止できませんでした(「ミサトの思想」参照)。
シンジ(神児)が搭乗したままエヴァは生命の樹の十字架上でロンギヌスの槍により処刑されます。しかし同時に、エヴァに搭乗していたシンジ(神児)は生命の樹に到達したので、神となることに成功し、未来を決める力すら手にします。そして、レイ(霊)がシンジ(神児)の恐怖と孤独の叫びにより母なる神(リリス)に目覚め、父ゲンドウ(言動)との融合を拒絶し、全ての生命を母胎に帰そうとすることにより、ゲンドウのもくろみは崩れます。

これにより、ゼーレの目的は達せられ(人類は原罪から解放され)、知恵の実を食べて以来存在していた他者との心の壁(ATフィールド)がなくなり、人々は融合をはじめ、生命の始源(リリスの卵=黒き月)へと回帰します(Fly Me To The Moon、魂のルフラン「私に還りなさい。生まれるまえに」。「ATフィールドの理論」参照)

 

 
ATフィールドがなくなることは、他者との壁がなくなることですから、その瞬間、融合できる他者がイメージされます。特にそのような他者がいない場合は、人類の母としてのレイのイメージです。ゲンドウには、その瞬間、ユイが存在するのがわかりました。しかし彼は、ユイに自分の気持ちを打ち明けた後、シンジのEVAに喰われるイメージを選びます。これは、シンジに対しての、申し訳なさ、怖れ、そして何よりもユイですらなく、本当はシンジと一体化したいという父親としての気持ちを表しています。

 


カヲルを殺して以来自閉していたシンジですが、悩んだあげく最終的に融合ではなく、傷つけ合う他者との共存を望みます。彼は、アスカとともに、リリスの母胎から現実世界に出て、互いに他者である人間として生きることを決めます。そのため、彼はエヴァに融合していたユイと、人類の母であるリリスに対し、「母にさようなら」という決断をくだします。その決断を認め、子供を一人立ちさせるため、母であるリリスとエヴァは崩壊します。他者との関係とは、不安であり、怒りであり、憎しみであり、悲しみであり、本質的に「気持ち悪い」ものです。シンジは、それらの衝動の苦痛に涙をながしつつ、それでも、他者とともに生きることを決意したのでした。(
「シンジは、なぜアスカの首をしめたのか」参照)。


なお、最後にアスカのことを付け加えます。彼女は父が、精神障害に陥った母を捨て他の女を選び、自殺に走らせた経緯から、「子供なんか絶対にいらない」という発言をするようになっていました。母への愛情はあるものの、母親の悲劇がもたらすコンプレックスのため、自分が母親にはなりたくないと考えています。つまり、母性を否定しているわけです。
しかし、弐号機の中で、母への信頼だけは取り戻します。
そして、最後にレイ(人類の最初の母リリス)と同じ姿(眼帯・包帯)を見せていることが象徴しているように、いずれ、アスカの心は補完され、自分の中の母性に目覚めるのでしょう。
そのとき、彼女は新しい時代の、新しい人類の母(エヴァ)となるはずです。

 



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