セカンドインパクト


セカンドインパクトとは何であったのか。
この問題の難しさのひとつは、セカンドインパクトについての証言が食い違っていることにあります。


<セカンドインパクトに関する錯綜する証言群>
[証言1]20話冒頭セカンドインパクトのシーン

「表面の発光を止めろ!予定限界値を越えてる!」
「アダムにダイブした遺伝子は、すでに物理的融合を果たしています」
「ATフィールドが、全て解放されていきます」

ここでは、科学者達がやろうとしているのは、人間の遺伝子をアダムにダイブさせるという作業です。


[証言2]25話ミサトが入手した情報

25話ミサト「15年前のセカンドインパクトは人間に仕組まれたものだったわ。けどそれは、他の使徒が覚醒する前にアダムを卵にまで還元することによって、被害を最小限に食い止めるためだったのよ」

ここでは、セカンドインパクトの目的は、アダムを卵に還元するととされています。


この二つの目的の食い違いを、統一的に把握できて初めてセカンドインパクトの真相に迫れるわけです。



なお、この他にセカンドインパクトの状況を示す言葉をあげます。
[証言3]
ビデオ版21話冬月「完璧にエリアを特定した、大気成分の変化、微生物にいたるまで全生命の徹底した消滅。爆心地近く、巨大な空洞あと。そしてこの光の巨人。この事件は謎だらけだよ」

この言葉から、単純な爆発事故ではないことがわかります。


[証言4]
26話伊吹「全ての現象が15年前と酷似している。じゃあ、これって、やっぱりサードインパクトの前兆なの?」

これは、サードインパクトの言葉です。これから、セカンドインパクトとサードインパクトは非常に似た現象であることがわかります。もちろん、マヤがさしている現象の一つは、量産エヴァがアンチATフィールドを放出したことでしょう。

しかし、「全ての現象」といっていることと、ある時点で全ての現象が等しいならば、その直前の現象も、その直後の現象も、やはりかなり似たような状況であると想定できることから、セカンドインパクトとサードインパクトは、かなり近い経過をたどったことが推測されます。


問題は、これらの発言を全て整合性をもたせて考えるにはどうすればいいかです。

まずは、証言4から考えてみましょう。
全ての現象において、セカンドインパクトとサードインパクトは酷似しているわけです。


<両インパクトにおける全現象の酷似>
では、具体的に何が酷似しているのでしょうか。

サードインパクトの要点を整理すると、

1.エヴァ初号機は知恵の実と生命の実の力を持つ。
2.ロンギヌスの槍がエヴァ初号機のコアを貫く
3.アンチATフィールドの放出
4.ガフの部屋が開く
5.ATフィールドがなくなり、人の肉体はLCLとなり、魂はガフ(リリスの卵)に回帰


この流れに沿った上で、一つ一つ、セカンドインパクトを見直して見ましょう。
1.エヴァ初号機は知恵の実と生命の実により、神の力を手に入れていた

26話冬月「使徒の持つ生命の実とヒトの持つ知恵の実、その両方を手に入れた」

この言葉と同じ状況を示すような事態が、セカンドインパクトにもありました。

「アダムにダイブした遺伝子は、すでに物理的融合を果たしています」

セカンドインパクトの直前、アダムとヒトは融合していたのです。
つまり、サードインパクトにおいても、セカンドインパクトにおいても、知恵の実と生命の実は一つになっていたのです(神に等しい力を持つ存在の誕生)。

2.ロンギヌスの槍がエヴァ初号機のコアを貫く
サードインパクトでは、月より飛来した槍が、エヴァ初号機のコアを貫きます。

セカンドインパクトでは、
「槍だ、槍を引き戻せ」
などの発言に見られますように、ロンギヌスの槍が使用されたことは確かですが、どのように使用されたかは不明です。
しかし、セカンドインパクトとサードインパクトが、酷似した現象であるならば、サードインパクト同様に、セカンドインパクトでは、アダムのコアを、ロンギヌスの槍は貫いていたと思われます。



3.アンチATフィールドの放出。
サードインパクトにおいては、
「リリスよりのアンチATフィールドさらに拡大!物質化されます」
「アンチATフィールド、臨界点を突破!」

それに対応するセカンドインパクトの証言は

「ATフィールドが、全て解放されていきます」
「コンマ1秒でいい!やつ自身にアンチATフィールドに干渉可能な、エネルギーを絞り出させるんだ」

どちらにおいても、アンチATフィールドの増大が起きています。


4.ガフの部屋が開く
サードインパクト
26話冬月「ガフの部屋が開く、世界の始まりと終局の扉が、ついに開いてしまうか」

セカンドインパクト
「ガフの扉が開くと同時に熱滅却処理を開始」


5.ATフィールドがなくなり、人々の肉体はLCLとなり、魂はリリスの卵に回帰。

サードインパクトにおいては、人々の身体が溶けてLCLとなる一方、魂のようなものが黒き月(リリスの卵)への回帰します。

キール「始まりと終わりは同じ所にある。よい、全てはこれでよい。」


セカンドインパクトでこれに対応するのは、証言2が示しています。

25話ミサト「15年前のセカンドインパクトは人間に仕組まれたものだったわ。けどそれは、他の使徒が覚醒する前にアダムを卵にまで還元することによって、被害を最小限に食い止めるためだったのよ」

リリスの卵(黒き月)に相当するものとして、南極にはWHITE MOON(白き月)が存在することがわかっています。つまり、アダムの卵でしょう。
セカンドインパクト本来の目的は、サードインパクトでヒトの魂が黒き月へ回帰したように、アダムの魂を白き月に回帰させることだったのです。

以上見ましたように、セカンドインパクトにおける様々な証言は、サードインパクトと同様の事態があったと考えてみると、きれいに整合性がとれるのです。


簡単にまとめると

サードインパクト             セカンドインパクト

知恵の実と生命の実を持ったエヴァ   ヒトの遺伝子と融合したアダム
エヴァのコアをロンギヌスの槍でさす   アダムをロンギヌスの槍でさす
アンチATフィールドの増大        アンチATフィールドの増大
ガフの部屋が開く              ガフの部屋が開く
ヒトはリリスの卵(黒き月)へ       アダムは卵に還元(白き月へ)



<なぜ、神の力が必要なのか>
ひとつ疑問なのは、ロンギヌスの槍でコアをさす前に、サードインパクトにおいてもセカンドインパクトにおいても、知恵に実と生命の実の融合が行われている点です。
これは、どうしてでしょうか。

はっきりしているのは、サードインパクトにおいても、セカンドインパクトにおいても、「卵に還元する」ことが目的である点です。

そして、それを行うには、過去への退行をおこさせるため、相手にデストルドーを起こさせ、結果としてアンチATフィールドを発生させることを前提としています。(なお、アンチATフィールドおよびデストルドーとは何か、また、ロンギヌスの槍を使うとなぜデストルドーが起きるのかといった点については、補完論文
「ATフィールドの理論」、「ロンギヌスの槍の機能」を参照ください)


ここで、興味深いのは、生命体を卵に還元するほどの強力なアンチATフィールドを起こす力があるのは、セカンドインパクト時のアダムと、サードインパクト時のエヴァ(および、それに呼応したリリス)だけであるということです。
それに対し、ATフィールドを発生させることは、全てのシトおよびエヴァなどに可能であり、ヒトも微弱ながらその力を持っています。また、アンチATフィールドについても同様なレベルで可能だと思われます(アンチATフィールド(もしくはそれに類似するもの)は、26話前半のエヴァ量産機および23話におけるシトが一応出しています)。


つまり、
ATフィールド(及びアンチATフィールド)を発生させることができるもの
:全てのシト及びヒト

であるのに対し

生命体を卵に還元するほどのアンチATフィールドを発生させることができるもの
:神の力を持つものだけ

という対比があるのです。
これは、考えてみれば当たり前のことです。
もともと、ヒトはATフィールドを持たない状態であったものを、知恵の実の力により(禁断の罪を犯すことにより)ATフィールドを持つようになったのです。

そして、ゼーレは、贖罪によりかつての状態に戻ろうとしていたわけです(
ゼーレ思想の真実参照)。

つまり、ヒトのATフィールドをなくすことが、ゼーレの目的であったわけですが、それは贖罪を行って初めて可能になるわけです。
ヒトは罪ゆえに、ATフィールドを負ったわけですから、それをとく力は神にしかありません。他の生命体を原初の状態に回帰させるほど強力なアンチATフィールドを発生させるには、神の力を利用しなくてはならないのです。

そのために、セカンドインパクトにおいても、サードインパクトにおいても、まずはアダムおよびエヴァに、神の力を持たせる必要があったのです。

このことは、別の面からも立証されます。
22話および、25話において、シトやエヴァ弐号機は、ATフィールドを破られ、コアを破壊されて活動を停止します。これは、ロンギヌスの槍の機能により、デストルドーのちからで死に向かったわけです。しかしながらどちらの場合においても、それ単体の生命を失っただけであり、アンチATフィールドの発生にはなりませんでした。
アンチATフィールドを用い、物理的に始原へと帰る力は、神のみが持つ力だからです。

なお、「光の巨人=神」という表現は何度かあります。
23話リツコ「ヒトは、神様を拾ったので喜んで手に入れようとした。だからバチがあたった。それが15年前。せっかく拾った神様も消えてしまったわ」


21話冬月「神のプロトタイプか」

拾ったわけではなく、意図的に神にしたわけですが、それはともかく、アダムがときに「神」と呼ばれるのは、ヒト遺伝子との融合によります(リツコ発言そのものの検証は
「アダム、エヴァ、リリス」参照)。


<セカンドインパクトの真相>
以上のように考えて、初めて全てを整合性もって理解できます。

まず、ゼーレの目的はこのようになります。
25話ミサト「15年前のセカンドインパクトは人間に仕組まれたものだったわ。けどそれは、他の使徒が覚醒する前にアダムを卵にまで還元することによって、被害を最小限に食い止めるためだったのよ」

しかしながら、卵に還元するには、神の力である強力なアンチATフィールドが必要です。
そして、神の力を持たせるには

26話冬月「使徒の持つ生命の実とヒトの持つ知恵の実、その両方を手に入れた」
というように、生命の実と知恵の実、つまりシトとヒトの融合が必要です。

そのために、
「アダムにダイブした遺伝子は、すでに物理的融合を果たしています」

というように、ヒトの遺伝子をアダムに融合させました。
融合させるには、アダムのATフィールドを、ロンギヌスの槍を使用して突き破る必要がありました。
そして、サードインパクトと同様の事態があったと考えるなら、コアをさしたのでしょう。

ロンギヌスの槍は、デストルドーの力を持つために、アダムはアンチATフィールドを放出します。(「ロンギヌスの槍の機能」参照)
その結果、確かにヒトの遺伝子はアダムに融合します。
しかし、同時に、この時点より、アダムは知恵の実と生命の実の力を手にし、神の力を持ったわけです。
そのため、アダムはそのまま全身から、桁違いに強力な、神の力としてのアンチATフィールドを放出しはじめ、「光の巨人」となりました。(光の放出がアンチATフィールドによるものであることは、26話における量産型エヴァなどからもわかります。)

「表面の発光を止めろ!予定限界値を超えている」


このままでは、全ての生命体が、その姿をたもてなくなり、LCLへと還元されてしまうため、科学者達はあせりました。

「ATフィールドが、全て解放されていきます」
「コンマ1秒でいい!やつ自身にアンチATフィールドに干渉可能な、エネルギーを絞り出させるんだ」

このアンチATフィールドの結果、一定距離内にいた生命体は全てアンチATフィールドに巻き込まれ、LCLへと還元されたのです。
それゆえ、証言3のような、
ビデオ版21話冬月「完璧にエリアを特定した、大気成分の変化、微生物にいたるまで全生命の徹底した消滅。爆心地近く、巨大な空洞あと。そしてこの光の巨人。この事件は謎だらけだよ」
というように、単なる爆発では説明のつかない現象が起きたのです。

このままアンチATフィールドが広がり続ければ世界の生命は全てLCLへと還元されるでしょう。

<魂の帰還場所としてのガフの部屋>
ここで注意して欲しいのですが、
ゼーレは、全生命がLCLに還元されることを望んでいたのではありません。
全てを始まりに戻すことを望んでいたのです。
肉体がLCLに還元されるのはかまわないのですが、魂は、生命の源たるリリスの卵に戻る必要があったのです。

しかし、それは前提として、リリスの卵、黒き月を復活させる必要がありますし、そのためには贖罪の儀式を終えている必要があります。2000年当時にアンチATフィールドが広がった場合、生命の肉体はLCLに戻り、アダムの魂もアダムの卵に帰るかもしれませんが、贖罪の儀式を終えていないためヒトの魂はリリスの卵に戻ることはできないのです。

生命体は、原始地球の生命のスープから進化論的に発展しますがヒトとシトの魂は、それぞれのガフの部屋から来たものなのです。このことは、ガフの部屋、という言い方にも現れています。つまり、黒き月は、ヒトの魂の帰る場所であり、全生命の魂が帰る場所というわけではないのです。白き月はアダムおよびそこから生まれたシトの魂の帰る場所だと思われます。もちろん、死ねば帰れるわけではありません。アンチATフィールドにより、LCLとの分離をおこなったものだけが帰れるのです(贖罪による始源への回帰)。つまり、生まれる前にかえる必要があるのです。

魂のルフラン「私にかえりなさい。生まれる前に。」

そして、分離したヒトの魂は、黒き月が復活しており贖罪の儀式が済んでいた場合のみ黒き月に戻ることができるのです。
よって2000年当時アンチATフィールドが拡大してしまうことは避けるべき事だったのです。

「ATフィールドが、全て解放されていきます」
「コンマ1秒でいい!やつ自身にアンチATフィールドに干渉可能な、エネルギーを絞り出させるんだ」

結果としてATフィールドが無くなっていたアダムはリンクしていた爆薬により爆破されました。


<科学者とゼーレ幹部の認識のギャップ>
 科学者達には、遺伝子融合の実験という認識が主なものであったでしょう。しかし、ゼーレの幹部には、知恵の実と生命の実を手に入れたアダムが、アンチATフィールドを過大発生させることは予期できていたのでしょう。そもそも本来の目的はアダムを卵に還元することですから。そのために、いざという時のために爆薬をリンクさせるとともに、自分達だけは実験直前に逃げ出したのだと思われます。

一方、科学者達は、アンチATフィールドを利用した遺伝子融合についての予測はできても、知恵の実と生命の実を結合するということが、何をもたらすことになるのかについて、まったく見えていなかったのでしょう。

キール「科学者達ってぇのは、どうも自分の考えを信じすぎるからね。」
碇「独善的ですか」
キール「思い込みが激しすぎるんだよ。現実を的確に把握できん連中だからな」
碇「そういう人種が真実を求めている。皮肉なものです」
キール「彼らはそんな、崇高なものではない。発見は喜びであり、理解は支配につながる。求めているのは、自分の気持ち良さだけだ。」


<最後に>
以上がセカンドインパクトの真相であり、なぜサードインパクトと全ての現象が酷似しているのか、また、最終的な結果は異なったのかの説明です。
最後に、「アダムの卵=白き月」がどうなったかですが、詳細は補完論文「白き月」を参照してください(現在作成中)。
ここでは、要点だけあげます。
ビデオ21話「ガフの扉が開くと同時に熱滅却処理を開始」
23話リツコ「ガフの部屋はからっぽになっていたのよ」
ビデオ21話冬月「爆心地近く、巨大な空洞あと」
ビデオ24話ゼーレ「そして正統な継承者たる失われた白き月よりの使徒、その始祖たるアダム」

つまり、白き月はセカンドインパクトにより「失われた」のです。


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