ロンギヌスの槍の機能

 


ここでは、セカンドインパクトからサードインパクトまで様々に使用されたロンギヌスの槍の持つ力とは何であるのかを考察します。


<セカンドインパクトにおける使用方法>
[2000年]


光の巨人アダムに対して使用されます。この時の使われ方を検討してみますと、


「表面の発光を止めろ!予定限界値を越えてる!」
「アダムにダイブした遺伝子は、すでに物理的融合を果たしています」
「ATフィールドが、全て解放されていきます」


ヒトの遺伝子がアダムに対して融合してます。ロンギヌスの槍は遺伝子をダイブさせるのに使用されているのです。また、ATフィールドの解放にも関係していそうなことがわかります。


では、なぜロンギヌスの槍を使用すると遺伝子融合が可能になるのでしょうか。


@ 21話、25話で出てきたようにATフィールドを打ち破る機能がロンギヌスの槍にはあります。
A ATフイールドを失うと、壁がなくなり融合します(26話)。


以上2点から、アダムのATフィールドに穴をあけることにより、ヒトの遺伝子をアダムに融合させることが可能であり、そのためにロンギヌスの槍が必要であったことがわかります。


つまり、ロンギヌスの槍はATフィールドを破壊する力を持っていることからセカンドインパクト時に使用されたということです。
では、そのような力を持つロンギヌスの槍とはいったい何なのでしょうか。

 


<ロンギヌスの槍の持つ力とは>
22話、25話では、ATフィールドを打ち破るためにロンギヌスの槍が使用されています。しかし、ロンギヌスの槍はなぜATフィールドを打ち破ることができるのでしょうか。


逆に言うと、ATフィールドを打ち破るのにもっとも優れた力はなんでしょうか。

もちろん、アンチATフィールドです。
さて、思い出していただきたいのは、セカンドインパクトの時の次の発言です。


「槍だ、槍を引き戻せ」
「ATフィールドが、全て解放されていきます」
「コンマ1秒でいい!奴自身にアンチATフィールドに干渉可能な、エネルギーを搾り出させるんだ。」


これらから、ロンギヌスの槍の力とは、アンチATフィールド(もしくは、それを引き起こす力)ではないかという推察ができます。

ここで、アンチATフィールドとはどのような力であったか確認しましょう。


26話
青葉「心理グラフ、シグナルダウン」
日向「デストルドーが形而下されていきます。」
冬月「これ以上はパイロットの自我がもたんか」

日向「アンチATフィールド、臨界点を突破」
青葉「だめです。このままでは固体生命の形が維持できません!」

つまり、アンチATフィールドの力により、「心の壁」ATフィールドが消滅していき、生き物の形を保つことが不可能になり、最後には融けて行くのです。

「ATフィールドの理論」で書きましたように、アンチATフィールドの力とは、デストルドーが原動力となっています。
デストルドーとは、フロイトによれば、生命体のもつ、始源へ回帰しようとする力(生命体以前に戻ろうとする力、結果として死に向かう力)です。
だからこそ、ヒトは(使徒もそうですが)、「心の壁」を取り払い、ヒトの形をすて、LCLつまり原始地球の生命のスープに戻ってしまうのです。


このことを踏まえて2000年に起きた他の現象もみてみます。

ビデオ版20話冬月「完璧にエリアを特定した大気成分の変化および微生物にいたるまで全生命の徹底した消滅」


なぜ、特定エリアの全ての生命が消滅したのでしょうか。

しかし、この時点で起きていたのはなんだったかといいますと、


26話伊吹「全ての現象が15年前と酷似している」

つまり、セカンドインパクトの直前、ものすごいアンチATフィールド(デストルドー)が生命体をおおっていたのです。

 


<セカンドインパクト>

ここで、セカンドインパクトとはなんだったのか、もう一つの証言を見てみます(詳細は「セカンドインパクト」参照)。

25話ミサト「15年前のセカンドインパクトは人間に仕組まれたものだったわ。けどそれは、他の使徒が覚醒する前にアダムを卵にまで還元することによって、被害を最小限に食い止めるためだったのよ」

アダムを卵に還元する、といっていますが、基本的に生命体の成体を卵に還元する方法などあるわけありません。ひとつの例外を除いて。
言うまでもなく、不可能を可能にする唯一の方法は、生命体のもつ始源へ回帰しようとする力、デストルドーを利用することです。

ここまでで、セカンドインパクトの二つの目的が明らかになりました。

1.ヒトの遺伝子をアダムに融合させること。
2.アダムを卵に還元すること(そのためには神(知恵の実と生命の実をもつもの)のみが放出できる、強力なアンチATフィールドが必要)。


そして、この二つを実現するには、一つの同じ力が必要です。
それが、デストルドーの力です。

そして、ここで使用されているのがロンギヌスの槍であることから、デストルドーこそロンギヌスの槍の機能ではないかと推察されます。


このように考えると、きれいにまとまります。
まず、セカンドインパクトの二つの目的を実現するためには、ロンギヌスの槍のもつ、デストルドーが必要でした。

しかし、デストルドーによる死の本能にとりつかれたアダムは、予想以上に強力なアンチATフィールドを放出しはじめたため、科学者達はあわてました。


「表面の発光を止めろ!予定限界値を越えてる!」
「アダムにダイブした遺伝子は、すでに物理的融合を果たしています」
「ATフィールドが、全て解放されていきます」
「槍だ!槍を引き戻せ!」
「コンマ1秒でいい!やつ自身にアンチATフィールドに干渉可能な、エネルギーを絞り出させるんだ」


そして、アダム自身に起きたデストルドーの衝動のため、アダムのみならず近くにいた生命体をも死への衝動に巻き込んでいったのです。
これにより、近くの範囲にいた全ての生命体が、それこそ微生物にいたるまで、完全に消滅しました。アダムの爆発に巻き込まれたのではなく、アンチATフィールドに巻き込まれて生命のスープに還元されたのです。

以上で、ロンギヌスの槍がセカンドインパクト時に果たした機能が解明できたと思います。

一言でいえば、デストルドー(および、それを元にしたアンチATフィールド)です。


<一般的な使われ方>

では、他の使われ方ですが、22話のとき、25話のときは、ATフィールドの破壊および生命活動停止のために使われています。単純な、武器として使用されただけですが、死への本能(デストルドー)をコアに突き刺すわけですから、心臓を停止させたというよりは、生きる意欲を消滅させたという方が正確な言い方かもしれません。

 

<リリスに対しての使われ方>


ロンギヌスの槍はDNAを思い起こさせる螺旋形態をとることがあります。また、セカンドインパクトの時にもDNA融合が一つの目的でした。リリスに刺した時も、同じようにしてDNA融合が目的だったと思われます。
その結果として、ロンギヌスの槍を抜いた時、妊娠しているかのように腹部が膨らんだのでしょう。
では、なぜ槍を抜いたとたんに腹部が膨らみ、足が生えてきたのでしょうか。
これもロンギヌスの槍の持つデストルドーの機能のため、肉体的な変化が遅らされていたためと思われます。

ここで一つおこる疑問が、アダムはデストルドーにより全身から発光(アンチATフィールドを放出)したわけであり、他の使徒も生命を失ったわけですが、なぜリリスはそうならなかったかです。
これは、リリスはコアを抜き取られていたからです。コアがなければ(心がなければ)デストルドーはその影響を及ぼすことはできないでしょう。なぜならデストルドーとは死への衝動(心の問題)だからです。
リリスのコアは、


26話レイ「ただいま」
     「おかえりなさい」

から考えて、レイに使われていたのでしょう。
なお、使徒において、コアというものは人間でいう「心(もしくは自我)」であり、心臓ではないことに注意してください(コア=自我という、この考え方は脚本版にのみ明記されている考えですが)。



<26話での使われ方>
さて、最後に映画版26話です。
ここで興味深いのが、月にあったロンギヌスの槍が、エヴァ初号機のもとに戻ってきた点です。これはなぜでしょうか。


24話シンジ「生き残るならカヲル君の方だったんだ。僕なんかよりずっと彼の方がいいひとだったのに。カヲル君が生き残るべきだったんだ。」
25話シンジ「もう嫌だ。死にたい。何もしたくない。」
26話シンジ「むしろいないほうがいいんだ。だから僕も死んじゃえ。」


シンジの心は、24話以降はデストルドー一色です。つねに「死」を望む発言を繰り返しています。
そして、26話冒頭でアスカの弐号機の残骸を見た時、絶叫とともに、我慢の限界をこえました。
つまり、シンジの心が完全にデストルドーに支配されたのです。そして、シンジの、死を願う心に呼応して、デストルドーそのものであるロンギヌスの槍が、自殺を助けるために呼び寄せられたのです。
ようするに、シンジ自身の「死にたい」という心(デストルドー)が、同じデストルドーであるロンギヌスの槍を月から呼び戻したのです。

このことは、別の面から見てもはっきりしています。
26話
青葉「心理グラフ、シグナルダウン」
日向「デストルドーが形而下化されていきます」
冬月「これ以上はパイロットの自我が持たんか」

シンジ「もうやだ。もうやだ。」

カヲル「もう、いいのかい」
シンジ「そこにいたの、カヲル君」

そして、ロンギヌスの槍はエヴァ初号機のコアに刺さっていきます。

つまり、ロンギヌスの槍を月から呼び戻したのは、(知恵の実と生命の実により)神の力を持つシンジのデストルドーであり、コアを刺させたのもシンジのデストルドーなのです。


さて、エヴァ初号機は、生命の木にはりつけになったスタイルで、ロンギヌスの槍に刺されます。また、26話の終わりの方で、エヴァの量産機はそれぞれロンギヌスの槍で自分のコアを刺していきます。これらは、別なところでも書きましたように、キリスト教の伝説の一つを背景としています。これにより贖罪の儀式は完成するわけです。

しかしながら、これらにおけるロンギヌスの槍の役割も、儀式としての面を除けば、デストルドーとして用いられていると考えていいと思います。その証拠に、儀式中では常にコアを刺しているからです。コアとは、自我であり、ATフィールドの源でもあります(先ほども書きましたが、このへんの考えは脚本版のものも使用しています。このあたりについてはまた別論文を作成します。)

つまり、自我をデストルドーにより崩壊させ、アンチATフィールドを放出するためにロンギヌスの槍が使用されたわけです。


<ロンギヌスの槍という名前>
以上見てきたように、一見様々な使われ方をしているロンギヌスの槍ですが、その機能を一言でいえばデストルドーです。
では、なぜこの槍がロンギヌスの槍と呼ばれるのでしょうか。

これも考えてみれば当たり前のことです。そもそも神の力をもつものを、周りの者が勝手に殺せるはずがありません。神の力をもつものを殺すことができるのは、あくまでも、神自らが死を望んだときだけです。そのためには、神に対してデストルドー(死への欲動)を引き起こす必要があります。そこで、デストルドーの機能を持つ、ロンギヌスの槍が必要とされるわけです。

このような理由のため、デストルドーの機能を持つこの槍は、キリスト教の伝説にかけて、神殺しの槍として、「ロンギヌスの槍」と呼ばれたのでしょう。





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