この文章を読むまえに、<二つのガフの部屋について>を必ずお読みください。
アダム計画は、セカンドインパクト以降の最重要計画のひとつです。ただし、人類補完計画同様にゼーレのものとゲンドウのものとでは意義付け、手段が違います。今回は、ゼーレのものに限定します。
アダム計画の歴史は古く、冬月が初めてジオフロントに入った時には、すでに実行されていました。
21話ナオコ「アダムより人の造りしもの、エヴァです」
ゲンドウ「我々のアダム再生計画、通称E計画のひな型たる、エヴァ零号機だよ。」
この時点では、E計画=アダム再生計画でした。
最初期のE計画は、セカンドインパクトにより失われたアダムを人の手で再生しようとするものであったのです。
ところが、
23話リツコ「本来、魂のないエヴァにはヒトの魂がやどらせてあるもの」
「ガフの部屋はからっぽになってたのよ」
というセリフからもわかるように、セカンドインパクトにより南極のガフの部屋はからっぽになっていました。その結果、純粋にE計画=アダム再生計画ではなくなり、
22話リツコ「ただのコピーとは違うわ。人の意志が込められているもの」
というようになります。具体的に言うと、ガフの部屋がからであるため、エヴァには人格移植やエントリープラグといった手段を使う必要が生まれ、さらに、その実験中にユイが自らの意志で取り込まれます(ゲンドウの思想参照)。ゲンドウはこの時点で路線を変更し、人類補完計画を提唱し、認可されることになります。人類補完計画のためには、エヴァは少なくとも12体必要であり(13体のエヴァ参照)、それを操作するためのダミープラグの研究やパイロットの確保、何よりもシトを倒す必要など、さまざまな問題が発生します。
つまり、人類補完計画を提唱した時点で、E計画は大幅な変更をよぎなくされ、単なるアダム再生計画から、人類補完計画のための一部となります。
さて、ここではゼーレの視点からアダム計画のその後の変遷を追っていきます。
E計画は単なるアダム再生を目的とするものではなくなったため、これ以降、両者は明確に別計画として扱われます(E計画およびその関連でのアダムの話題は別論・・作成中)。
アダム再生については、ガフの部屋がからであるため、人工的に作るのはあきらめられ、セカンドインパクト時に発生したアダムの断片(DNA)からの復元を目指すこととなります。
この時期がいつかは、
21話脚本版ゲンドウ「今日から新たな計画を推奨する。キール議長にはすでに提唱ずみだ。E計画とは別に、オリジナルであるアダムの再生をも推し進める」
冬月「アダム計画だな」
という会話が2004年に存在し、人類補完計画と共にアダム計画が始まります。ただし、この会話はTV版では削除されております。しかし、映画パンフもこの設定にしたがっていること、ゲンドウにとっての人類補完計画においてはアダム計画は必須であったことを考えると(別論・・作成中)、基本的には2004年の時点から構想されたものと考えてよさそうです。
さて、実際にアダム計画の進展が確認できるのは、
7話中国人の男「サンプル回収の修正予算あっさりとおりましたね」
8話加持「すでにここまで復元されています。硬化ベークライトで固めてありますが、生きてます。間違いなく。人類補完計画のかなめですね。」
碇「そうだ。最初の人間、アダムだよ」
というように、ドイツから輸送されてきた、すでに胎児状態まで復元されているアダムでした。
その後、人類補完計画の遅れについてゼーレがいらついていることに対し、
14話ゲンドウ「アダムの再生も予定どおりだ。2%も遅れていない」
と答えていることからも、アダム計画がゼーレ公認のものであり、再生は順調に進んでいることがわかります。
つまり、アダム計画は人類補完計画を進めるゼーレにとっても、必須の計画であったわけです。
では、どのように人類補完計画(ゼーレの想定する)にからんでくるのでしょうか。
ゼーレの思想は、人が贖罪し、新生することです(ゼーレの思想参照)。
新生するには、贖罪の儀式ののち、始源に還るわけですが、魂の還るべき場所であるガフの部屋はふたつあります。ひとつは、日本にある、ジオフロントであり、リリスの卵です。
もうひとつは、南極にあるものです。
さて、ゼーレは人間の原罪を打ち破り、新生することを目指していました。一方では、人間はリリンと呼ばれるように、リリス(魔女)の子として悪魔同様に見なされています。ゼーレの発想の中には、新生するさいにリリスではなくアダムのガフの部屋を利用しようという意図が一時ありました。
春映画予告編「誤った生命の源であるリリスの卵」
リリスの卵を誤った生命の源と捉える以上、正しい生命の源はアダムの卵(南極のガフの部屋)のことしかありえません。
アダムの卵を使用した新生を行うには、当然アダムが必要となります。だからこそ、アダムは「人類補完計画のかなめ」だったのです。
しかし、アダム計画を委ねられたゲンドウは、アダムもリリスも独占します。
14話ゲンドウ「切り札たる物は全てこちらが擁している。彼らは何もできんよ。」
25話ゲンドウ「リリス、そしてアダムさえ我らにある。」
冬月「老人たちが焦るわけだ。」
しかしながら、25話時点では、ゼーレは既に新生のよりしろとして、エヴァ初号機を使用し、リリスの卵に戻ることを決定したあとでした。
DEATHゼーレ「アダムやシトの力は借りぬ」
「我々の手で、未来へと変わるしかない」
このセリフは、一つには、シトによる贖罪を拒否する宣言でもありますが、アダムとシトを分けているように、アダムによる贖罪とシトによる贖罪が別な形をとることを表してもいます。
シトによる贖罪の可能性については別論しました(ゼーレの思想参照)。ここでは、アダムによる贖罪をやめた点に注目します。つまり、リリスの卵により新生することをゼーレは決断していたのです。この決定の背景としては、ひとつにはアダム計画がゲンドウの手に委ねられているためもあると思われますが、ロンギヌスの槍が無くなった時点でリリスやアダムではなく、初号機を使うことを検討していたのでしょう。
この変更はゲンドウや冬月には知らされていませんでした。彼らは、ゼーレはアダムの卵を使用すると考えていたのです。だからこそ、ゼーレと決裂した段階になっても、「リリス、そしてアダムさえ我らにある」と言っていたのです。
しかし、ゼーレはリリスの卵に目標をしぼり、ゲンドウに余裕を与えず一気にサードインパクトを起こす気でした。
25話冬月「S2機関搭載型を9体、全機投入とは。大げさすぎるな。まさか、ここで起こすつもりか。」
冬月もこの時点でようやく、ゼーレの目的が本部施設やエヴァの占拠にのみあるのではなく、サードインパクトを、南極のガフの部屋ではなく、リリスの卵を使うことで起こそうとしていることに気づきます。
アダム再生計画はゼーレにとっての意義をすでに失っていたのです。
<アダム計画(ゼーレ編)まとめ>
アダム再生計画は、当初はE計画として、エヴァを人の手で造る計画として考えられていましたが、人類補完計画の提唱とともに、オリジナルアダムの復元計画となりました。ゼーレは南極のガフの部屋を使ったサードインパクトも検討し、人類補完計画のかなめとして、アダム計画をゲンドウの手に委ねましたが、最終的にリリスの卵を使ってサードインパクトを起こすことに決定。アダム計画はその意味を失いました。