クラリスのような美少女は実在するのか

1980年、新ルパンが完結した後、宮崎駿監督による最終回をめぐって、スタッフの座談会が開かれた。
その中で、スタッフに酒がまわったのを見たアニメージュの担当者は、以下のようにけしかけた。

アニメージュ「さて、だいぶ酒も入ってきたところで、宮崎さんの悪口いってみましょうか?」

全員「・・」

アニメージュ「なんでもいいです。」

当初、メガネかけない方がやさしい顔だとか、頭がでかいとか、宮崎駿監督の顔の話題ばかりだったが、アニメージュの担当者がキャラや演出の話題に軌道修正した結果、以下の会話が登場した。

山本「特徴でいえば、やさしさの表現かな。」

山内「女の子に対してやさしいですね」

丹内「おばはんでも?(笑)」

山本「女の子だけじゃなく、画面全体が・・」

友永「でも、女の子がキレイごとすぎるんじゃないかな。ラナとかクラリスとか今回(新ルパン最終回の小山田マキ)のとか。

丹内「そう、オシッコもウンチもしないって感じだね。」

田中「女の子だけはダマしちゃいけないの」

山本「きっと、若い頃モテなかった屈折でしょう(笑)」

友永「アルバトロス(新ルパン)で不二子が、上かくして下かくさないでしょう。もちろん見えないけど、ふつう逆なんじゃないかな。あれなんか不自然だなあ。」

田中「あたし、いやだっていったら、キミは女の気持ちがわかってないって。どっちがわかってないのかしらね(笑)」

この会話は、おそらく宮崎監督を傷つけた。
アニメージュの翌号では、対談の中でこのように言っている。

宮崎「このあいだ、ぼくの描く女の子はオシッコもウンチもしないようなのばっかり描くっていわれて(笑)。ならおまえたち、オシッコやウンチばっかりする女の子を描きたいのかって・・(笑)。そんなの周りにいくらでもいるじゃないですか(笑)。でも本当は、存在感を持つすてきな女を描けるスタッフがほしいと、つくづく思っているんです。

岡田「それでね、このあいだ、アニメージュ編集部の人に、あの(カリオストロの城の)ラストシーンは「荒野の決闘」だと思うけど、という話をしたんですけど、お好きなんですか?」

宮崎「ええ。でも本当はぼくよりももうちょっと上の世代の人たちですね。」

岡田「昭和ひと桁の人たちですね。「荒野の決闘」の熱狂的なファンは。

宮崎「大塚さんの世代はね、みんなあのヘンリーフォンダの歩き方をマネしたりしたんですよ(笑)。」

岡田「素晴らしいですね、画面を花道に変えるような歩き方。」

宮崎「ほんとうにね、ちょっとああいうことのできる役者は・・。アニメーションではとてもできません。」

岡田「でも、アニメでそこまでリアリズムに徹する必要もないかもしれませんね。で、ちょっと思ったんですけど、クラリスは宮崎さんのクレメンタイン(映画荒野の決闘のヒロイン)だったわけですか?」

宮崎「いや・・そんなことは・・まあ、いろんなヒロインやってきてますから・・。でも、クレメンタインのようなヒロイン像って、何でなくなっちゃったんですかね。」

岡田「やっぱり、何も食べてないような気がするからじゃないでしょうか・・(笑)男の夢だったと思いますね、ああいうヒロインは。」

宮崎「ある種、さわやかな感じでね。めしも食うだろうとかいうのはあたり前のことですから。」

岡田「見ているあいだ、そういうことを考えないですむヒロインも必要だと思いますね」

宮崎「と、思います。だって、ほれた瞬間っていうのは、オシッコするかウンチするかなんて考えてほれませんよね。そういうふうにのぼせる時期もあるんで、そういうことのシンボルとしてあらわれてくれればそれでいいんじゃないかと思う。チャップリンの映画でね、チャップリンというのは、自分がそのひとのためにひと肌ぬいで、自分がいまの状態より、より高貴になれるっていうか、意味がある人間になれるという、そういう相手を探して歩くような映画ばっかりつくったでしょう。」

さて、ここで言っているのはあくまでも物語における美女の役割だが、実際には宮崎駿監督自身が、クラリスのような美少女の実在を信じていたことは、以下のインタビューでも明らかである。(前半は、やはり物語における美女の役割の一般論だが)

宮崎監督「冒険物語って必ずね、終わりがメデタシメデタシで終わって・・その後はどうなるか知らないよって事で終るもんなんです。それは何故かっていうと、そっから先はあんたがた自分でやりなさいって事なんですね。」

「あの、例えばね、こう・・・ヒロインを出したとするとね、ロリコンの対象になったりするんですね、ぼくは。(笑)だけどそれは、それを意図したんじゃなくて、あの、昔から伝えられた物語というのはみんな、じつは、はじまる前までの話なんですよ。

ほんとの人世というものは、メデタシメデタシの後からはじまってくんですね。そこでオムツ洗ったりね。そういう事が実際はじまんのは、それは皆さん、 あんたがたが自分で体験しなさい、物語はここで終わります。・・・。だけど、要するに、子供に対して、そういうふうに(メデタシメデタシで)やっていけるもんですよという、はげましなんですね。じつは。そのままいじけてね、ずーっと今の子供のまま親の言う事をききね、まわりの言う事をききながらね、いじけて生きてくんじゃなくて、必ずあなたのすばらしさをみつけてくれる人がいるもんだとか、それからあなたを助けてくれる魔法使いが出てきたり、するもんですよって、この世の中には・・。

そういうふうな、こう、メッセージがこめられているもんだと思うんですよ。でそのメッセージを受け取って、それでメデタシメデタシから実際人世始まって、だからそのあとは、自分で体験しなさい、死ぬまで幸せにくらしましたでいいんですね。

で、だからあのー、そうじゃなくなっているんですね、今の世の中ね。今の世の中そうじゃなくなってるからロリコンになっちゃうんだ。
もう、すぐに・・。じゃ何故そうじゃなくなったかっていったら、たいした事もどうせ起こらないと思っているからです。

−−どうせこんなもんだと・・。

宮崎監督「そう、どうせこんなもんだと思ってるから。だから、そうじゃない事考えてる人間が許せないんですね。許せないってヘンだけど(笑)ウンチもオシッコもしないのかっていう反論は、そっから出てくると思うんですよ。

それは、あの、しょうがないです。それは・・例えば、映画スターの中から美女というものが消えてしまったのはそれだと思うんです。アメリカのテレビドラマ見てたら、よくもまあこんだけオカチメンコを集めてくるなあと思うぐらいね・・その、そう思わないですか、ハルクっての見てたんですけどね昔、あの・・。」

高橋 「はい、見てました!(笑)」

宮崎 「緑色の怪人(笑)で、出てくる女がみんなブスなんだよね(一同笑)」

高橋 「そうです!それが不思議でしょうがない!!(笑)で、男がみんな美男子なんですねえ。」

宮崎 「それ、存在感はあるんですよね。」

高橋 「ありますね。」

宮崎 「非常に存在感はある。」

高橋 「あの、スーパーマン、新しく映画で、ごらんになったかどうか知りませんけど・・。」

宮崎 「それ見たかったんですよね。」

高橋 「あのー、女性記者なんて名前だっけ・・。」

−−ロイス・ローレン。

高橋 「そうそうロイス、ロイスにスーパーマンがなんでホレてるんだろうという(笑)気がするんですね。スーパーマンはスゴイいい男なんですね。当然世界中の女性からもてるだろうなあと思うのに、ロイスだけなんですねぇ。でも、ロイスいったいどこが魅力的なんだろう (笑)って感じがするんですねえ。(笑)

宮崎 「いやあ、だから、つまり、となりにいる人の存在感のほうが信用できる。その、夢か幻かわからない投影美女よりね。(笑)それはそれでひどくわかる時代なんだと思うんだけど、だからそれは・・カサブランカって映画見てね、その、イングリッド・バーグマンが美しくて、みんな男どもがボーっとなってね・・。

−−ええ。

宮崎監督「で、イングリッド・バーグマン、イングリッド・バーグマンって(笑)いったりね。それから荒野の決闘見てね。クレメンタイン、 わークレメンタインってこう(笑)まあよく見ると美人じゃないけど、それはともかくとして(笑)ね、そういうふうな対象として、女性が遠くにいるんじゃなくねて。となりにいるんですよね・・。松田聖子なんてどこがいいんですか、あんなもんは、うすぎたないだけで。 (爆笑)」

−−(某スタッフマジで)そうですねー!

高橋 「いや、こういう事おおっぴらに言えるのは男ばっかりだからだ。(笑)」

−−やっぱり、遠くの宝物より近くのほうがいいって・・。

宮崎監督「というより、だからある意味では健康なんですよ。昔は簡単に女の子とデートしたりね。話する事がなかなか許されなかったりできなかったりしたから、それは遠き旨酒<うまざけ>であってね、で、その(遠い存在だった)女の子と実際しゃべってみたらナンダイテメーってね、オレなーってやってるのを見ると・・夢も希望もなくなるのは、小学校の時からそうやって鍛えられてればね(笑)、なかなか そう・・。それはそれでわかる。(笑)」

宮崎 「だから、それは男だけのもんなのかっていうと、じつは女のほうにしても、おんなじ事じゃないかっていう・・ぼくは思うけどな。
どうなんでしょうね。雪の女王見て感動するのは男だけなのかって。そんな事はないとぼくは思うんだけど・・。」

高橋 「カリオストロの城見た女の子に聞くと、まあ面白かったけれども、あの女の子は不思議な女性ですねってみなさん言いますね。女性は。ああいう女の子はいませんよって言うんですねえ。」

宮崎監督 「みんなものすごい自信持ってるんですね。ぼくは、ああいう男はいませんよとは言えないですね。例えば男の側からいうと・・いろんな男が出てくるでしょ。」

高橋 「ええ。ええ。」

宮崎 「こういう男はいませんよとは言わないでしょ。女は言うんですね。こういう女はいませんよって。」

高橋 「言いますね。(笑)」

宮崎 「自分の性については、わかったと思ってんですね。おかしいでしょう。

(急に強い声で)いや、あんなのいますよォ!!ぼくはいると思ってますよ。」

−−はあ。

宮崎 「(ああいう女性は)そういう状況が生むんじゃないかとも思いますけども。それから、たった2日か3日の話ならばね。」

高橋 「そうですね。」

宮崎 「足を投げ出してねえ、おせんべボリボリかじるようなとこ見せなくてすむんじゃないですか。人間てのは。(笑)3日や4日緊張してられますよ(一同爆笑)」

宮崎 「面白いですね、女の人ってのはねえ。ヒジョウに女の子からイロイロ言われましてね。ここ(テレコム)のスタッフからも。(笑)

私だったらあそこで泣きわめいて最後まで抵抗するとか・・。そしたらいっぺんで張り倒されて終わりじゃねえか、とかね。(一同爆笑)

なんかそういうの・・それはちっとも美しくないな、とか。(笑)色々思ったりして・・。」

(漫画の手帖「宮崎駿特集」より抜粋)

さて、ここまで多くの人々(女性スタッフ含む)に否定されてきたクラリスの実在性だが、ファンとの質疑応答の中では、実際の少女たちはむしろ肯定的に見ていたことが以下のやりとりでは伺える。

<質問>宮崎さんは、ラナちゃんとかクラリスとか、すごく清純な女の子を描いていますけど、そのことについて宮崎さんは「現実にも、ああいう清らかで純粋な女の子はいる」と、どこかのインタビューに答えていましたが、アタシも女の子のひとりとして絶対にいると思うんですけど、あの、そのことについてどう思っていますか?

宮崎「たいへんムズカシい質問です。まず、清純に描くにとについて、ある女性スタッフから、こういわれたことがあります。

「せめて、クラリスがルパンといっしょにラーメンをすすってくれる場面があれば、ホッとしたのに」

なぁるほどと、その言葉を聞いて感心しましたね。そういえば、ぼくの描く女性の飲食シーンはジュースを飲むぐらいしかないですよ(笑)。

しかし、清純な女の子しかアニメーションに描かないといわれいることは、ぼくが現実の女の子に絶望し、アニメーションの中の美少女に夢を追い求めているということでは決してありません。むしろ逆ですよ。ぼくは、たいてい、ほれっぽいたちでして(笑)、現実の女性のほうが好きです。さきほどの仕上げ検査の女性みたいな人のほうがね。ただ、非常に生々しい女性を描くことができないという側面がぼくにあるのはたしかですね。

だけど、漫画の主人公である少年少女がその映画なり、テレビなりでやったことで人生を終えてしまうような描き方はしたくないんです。
クラリスも、成長するにしたがって、いろんなことを味わっていってほしいと思う。自分の手をよごすことがあるかもしれない。だからといって、ダメになるわけじゃないんですね。

「戦争と平和」という長編小説では、最後にヒロインだった娘がすっかり太ってしまい、母親になっておむつをかえたりして忙しく走り回っているところで終わるんですけど、ぼくも、そういうふうにして、ひとりの少年少女の成長というものを期待しながら、ひとまず少年少女時代を描き終えていきたいと考えています。

司会 かわいらしい少女のその後は、見ている側がイメージをふくらませて想像させていくことなんですね。

宮崎 かわいらしい・・ですか?・・。あのォ、ぼくは”こっち向いてニッコリ”というのが大きらいでしてね(笑)。こびを売っているような気がして、ぼくには描けない、いや描きたくないんです。

そういう意味でのかわいい女の子は”こっち向いてニッコリ”なんかしてくれませんよ。”あっち向いて、それっきり”なんですよ(笑)。なんだか武田鉄矢的心境ですけどね。

<質問>
私も女性ですので、もうひとつだけクラリスの質問をさせてください(笑)。実は、あの清純なクラリスは、夢の世界の女の子ではなくて、われわれのまわりにもいるふつうの女の子じゃないか、と私も考えているんです。現実には、クラリスのような清純な女の子でいると「ブリッ子」などといわれてしまい、なかなか表面には出しませんが、心の中では、やっぱりその気持ちが誰にでもあるような気がするんですが」

宮崎 非常によくわかりますよ。それは、男もたぶん同じだろうと思います。だから、どういう人に出会うかによって、自分がどういう人間になれるか、ということだと思います。精神分析医の岸田秀という人が、こんなことをいっています。

「金で女を買えば、それだけの、つまり金で買えるものしか手に入らない。しかし、相手が売春婦でも、もし真心をもって愛を勝ち取ることができたら、それは真心で得た愛情になるだろう。」

これと同じようなことが、ぼくらのまわりにはあります。いろいろさがしまわっても、なかなか見つかるものじゃなくて、実は隣にいる人の中に真実みたいなものがあるんだということですね。

ですから、いつもヒンシュクを買っている言葉ですけど、「遠き美女より近いブス」(笑)・・・と、いつもぼくはいっているんです。女の子にいうと、おこられるんですよ、言葉がよくない、と。

しかし男にとって、このことは真理だと僕は思っていますよ。
(1982年 アニメージュ文庫発刊記念イベントでの質疑応答 ナウシカガイドブックより抜粋)

さて、ここで一気にとんで、20年後のインタビューを見てみよう。

まずは「千と千尋の神隠し」。

宮崎 僕の10歳くらいの小さな友人たちに、「あなたたちのために作った作品だ」って本当に言えるものを作ろうと思ったんです。

−−主人公・千尋は、監督の幼い友人たちがモデルになっているのですか?

モデルというか、あう点ではそっくりですけど、ある部分は全然似ていないです(笑)。

−−その似ている部分というのは。

宮崎 ブスなところとか(笑)。

−−それはこの映画の最初に登場するブウたれ顔の千尋のことですか?

宮崎 うーん。あれはまだいいほうで、リアルにいったら実際には10歳くらいの娘たちというのは、もっとブウたれているんだと思います。

−−監督は、やはり千尋のことをブスだという印象で描いているのですか?

宮崎 いやぁ、いわゆる美少女だとは思ってないです。そういう風に描くつもりもありませんでした。この娘がこれからどうなっていくのか分からないというふうに描きたかったんです。それで僕はこの娘を描いているうちに、けっこうさっそうとした女の子になるんじゃないかと思いました。人の魅力というのはわからないですからね。突然変身しますから。人間の顔は、途中からその人自身が作り始めるものだと思うんです。だからこそ、千尋はいわゆる美少女風の顔にしたくなかったんです。それで正解だったと思っています。

(ロマンアルバム「千と千尋の神隠し」宮崎監督インタビューより)

また、ハウルの動く城の製作では、スタジオジブリ内で、以下の議論もあったという。

女性が可愛いか可愛くないかだけで判断されるのはおかしい。
宮崎監督も還暦を迎え、「もし若さだけに人間の価値があるとしたら、歳をとったら意味がないのか?」ということは大きなテーマだった。
女性スタッフ達への感謝の気持ちも込めて、「歳をとった女性にも魅力はあるよ」というものを作りたかった

(ロマンアルバム「ハウルの動く城」鈴木プロデューサーインタビューより)

物語における美女の役割とその実在について熱弁をふるっていた20年前と大きく異なり、実際に手近にいる少女が楽しめるようにリアルな少女像を描いた「千と千尋の神かくし」といい、容姿や若さに囚われない魅力を描こうとした「ハウルの動く城」といい、宮崎監督の視点が、年齢を重ねたことで大きく変わったことがわかるだろう。

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最終更新: 2014-04-24 (木) 00:44:04 (JST) (1635d) by yasuaki
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あいうら
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<2013年劇場版>

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<2014年冬アニメ>

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ジョバンニの島
魔女っこ姉妹のヨヨとネネ
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ニセコイ
マケン姫っ! 通
ノブナガン
となりの関くん
熱風海陸ブシロード
いなり、こんこん、恋いろは。
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ハマトラ