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宮崎駿監督が、新ルパン三世の企画そのものに批判的だったこともあり、この時期における、いわゆる「宮崎ルパン」はわずか3つである。
映画 カリオストロの城
TV 145話 死の翼アルバトロス
155話 さらば愛しきルパンよ
傑作揃いであることは、いうまでもないだろう。
そして、この3作には、宮崎駿監督が、この時期のルパンにかけた3つの思いがつまっている。
・人を殺さないこと。
・世界を牛耳る巨悪と戦うこと、もしくは、少女を救うことで、汚れた中年男を輝かせること。
・金儲けに飽きた人間であること(貧乏であること)
しかし、新ルパンの作品を全て(?)嫌っていた宮崎駿監督にとっても、さすがにこのポリシーだけで全編を作れるとは考えていなかった。
**なお、宮崎監督の新ルパンへの思いは「さらば愛しきルパンへにおける宮崎監督の真意」参照のこと
巨悪と戦うシリアスなストーリーと、ドタバタのお笑い作品とのバランスの重要性は認めていたのだ。
だが、さきほどみたように、3本ともルパンもののテーマとしてはシリアスな作品となり、結果として、お笑いルパンが好きなファンや、旧ルパンが好きなファンからは、「あれは、宮崎アニメであってルパンではない。」との批判を受けることにもなった。
しかしながら、宮崎駿監督が、ドタバタのお笑い劇に徹したならば、どれほどの痛快作を作る力があるかは、旧ルパンの後半シリーズを見たことがある人ならば、わかるだろう。(アルバトロスは物語そのものは十分ドタバタだが)
新ルパンにおいても、宮崎駿監督は、純粋なお笑いものも作りたいと考えていたし、それが作れなかったことを心残りとしている。
以下、「THE LUPIN」のインタビューより一部抜粋。
?ルパンでやりたくてもできなかったエピソードはありますか。
そうですね。由緒ある巨大な入母造りの古い銭湯を舞台にした話を考えていました。
うんとバカバカしいやつです。
銭湯では銃も使えないし、刀を持ち込むわけにもいかないから、みんな素っ裸でやるんです。
みんな裸になって風呂に入っている。
狙うエモノは湯舟の中のタイルに隠されている何かで、それをめぐって大乱闘になるわけです。
みんなタオルぶら下げてですね、前を隠しながら回し蹴りをやったり、男湯と女湯の境がひっくりかえっちゃったりして、女湯にも不二子が入っていたりしてね。
・・・壁の絵は堂々たる富士山でなければ勿論いけないわけです。画面処理も、風呂の中はちゃんと水中の色にして、タイルなんかがユラユラと揺れていたりしてね。
そういうばかげたやつをとことんやったら楽しいだろうなと思ったりしました。
この話の具体的な構想の模様は、「さらば愛しきルパンよ」の座談会でもわかる。(アニメージュ80年12月号)
田中 はじめは、オープニングを富士山でいくはずだったのね。一稿目は、銭形が日本に帰ってくるところから。
友永 そのまえは、銭湯の話をつくるとかいってたね(笑)。
AM 銭湯?
田中 おふろ屋さんの銭湯。
友永 ふろ屋のなかのドタバタらしい。
田中 裸だけど、かんじんなところは絶対に見えないという。
AM 変な話をつくりたがる人ですね。
山内 それで魅力を感じてテレコムに入ってきたんです(笑)。
田中 ふろ屋の話だと「アルバトロス」のような感じになっちゃうんじゃないの。
友永 ふろ屋の下にキャタピラつけて走り回る(笑)。
田中 そうそう、あったあった。”空飛ぶ銭湯”っていうの。
AM 宮崎さんは”空飛ぶゆうれい船”を意識していたみたいですね。
田中 そういっていた。「?ゆうれい船」をこえるぞ!!って。
この座談会の内容から、以下のことがわかる。
・新ルパンにおける宮崎アニメにはひとつの目標として「空飛ぶゆうれい船」があった。
・当初は、「銭湯」の話も、「空飛ぶ」話も、「戦車」の話もごっちゃになっていた。
・「空飛ぶ」話は「死の翼アルバトロス」になり、「戦車」の話は「さらば愛しきルパンよ」になった。
・「空飛ぶゆうれい船」に近い、テーマ性を持った話はこの2作でほぼ描いた。
**(ただし、宮崎駿監督は、TV枠ではなく本当は映画として作りたかった。詳細は宮崎駿監督によるルパン3世の第三シーズンと映画第三弾構想参照)
・結果として、「銭湯」の話だけ、作ることなく終わってしまい、宮崎監督としては、
純然たる「バカバカしい」話として、「銭湯」ものを作りたかったという思いだけが残った。
このように捉えてみると、謎であった以下の点にも了解がいく。
・「死の翼アルバトロス」で裸のシーンが多かった点
・「さらば愛しいルパンよ」の絵コンテの表紙でルパンがパンツしかはいていない点
さて、「空飛ぶ銭湯」は作れなかったが、その作品のイメージ(?)は、様々な宮崎作品に見られる。
・「さらば愛しきルパンよ」の最後が、銭湯の背景に描くはずだった(?)富士山になっている点。
・「千と千尋の神隠し」が、「由緒ある巨大な入母造りの古い銭湯を舞台にした話」を彷彿とさせる点。
・「ハウルの動く城」で、動く城の風呂のシーン。
これらの「銭湯」シーンをみながら、幻に終わった新ルパン「空飛ぶ銭湯」に在ったであろう名シーンの数々を想像することが、もっと宮崎ルパンを見たかった視聴者に残されている唯一の手段である。