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1.「もののけ姫」の原案となる3つの物語 「もののけ姫」は、宮崎駿監督が30年前から考えていた複数の案から成り立っています。「たたら場」の物語、「美女と野獣」、侍の物語など・・。日本を舞台にしたファンタジーを創ることは、宮崎監督にとって20歳のころからの構想でした。 「日本を舞台にしたファンタジーを作りたいという気持ちは、20歳ぐらいの ときからずっとあったんです。」(ロマンアルバムより) 「僕が一番最初に漫画を描いたのは<時代劇>です。20歳ぐらいのときでした。」(ナウシカ水彩画集より) 「このモチーフはもっと前からあったんです。まずずいぶんと古いモチーフと しては『美女と野獣』があって、それから、日本を舞台にした製鉄集団という のもありました。山を削っていくうちに巨大なものがやってきてね、ある日歩 き出すっていう、そういう映画を作れないかなって。東映に入ったばかりの頃 から言ってたことなんです。」(「風の帰る場所」より) 「「もののけ姫」っていうタイトルで、美女と野獣を下敷きにした、まったく別の ストーリーボードがあったんですよ」(「風の帰る場所」より) (参考)「美女と野獣」を下敷きにした「もののけ姫」です。見てのとおり、後のトトロの原形ですね・・ この作品については、こう語っています。 「絵本の形でまとめた『もののけ姫』の話というのは、自分で全モチーフの交通整理がつかないから、それをほんのわずかのものでまとめてしまったものなんです。テレビのスペシャル枠ぐらいだったら、このくらいの長さでちょうどいいだろうと思って作った話です。ですから、心ひかれる部分があると同時に、大事な部分をずいぶん削ぎ落としてしまたという思いがあります。一応形にしてみたらこんな形になりましたが、作品全体としては、もっと混沌とした、奥深い暗がりを持つ、そういうものでありたかったんですね。 それに、<美女と野獣>の形を借りて、民話風の味付けと黒澤明風の味付けとで仕上げただけですから、自分にとっては出来合い品でまとめたというイメージがあります。どうしたら面白くなるかと、色々考えてはみましたけれど、あまり面白くならないな、スケール小さいなと・・・。それはやはり基本的な材料がもらいものだったからです。」 また、それらとは別に、少年を主人公にした、勇ましい時代劇の構想もありました。これが、アシタカの原形になります。 これについては、1981年のインタビューより抜粋します。(「アニメコレクション・カリオストロの城」より) このインタビューは、「[[カリオストロの城]]」のあとに、スポンサーや予算、スタッフなどの制約を一切考えないでいいとしたら、次は何を作りたいかと質問されてのものです。 「そうですね。今までの、あらゆる時代劇とも民話とも違うけれど、明らかに日本を舞台にした壮烈な時代劇をやってみたいですね。本当に・・。 日本が持ってる最高の主人公って言うのは侍なんですね。 だけど、それは主君に仕えるとか武士道とか江戸時代から、ぐしゃぐしゃとくっついてきたもんじゃない。 自分の力と頭で自分の運命を決めていくことが出来たのは侍だけなんですよ。ところが戦後そういう主人公が消えてしまったんですね。 今、僕等や若い人が見て面白いかどうかは別としてね、岩見重太郎のヒヒ退治 とか俵藤太のムカデ退治とかってのは昔はたくさんあったのに、何故か戦後消えてしまっている。 で、代わりに出てきたのはサラリーマンの視点から武将をとらえるとか経営者の発想で徳川家康を評価するとかの類なんですね。 もっと未知な、荒々しい部分があった頃の日本を舞台にして、何かSF的発想 も含めて壮大なスケールの物語が作れたらいいなあとおもってますけどもね。 それは逆に世界に通用する映画になり得るんじゃないかって気がする。 SFの巨大メカはね、いくらデザイン変えたところで巨大メカっていう一点で、あの「スター・ウォーズ」の帝国軍の宇宙船にはかなわない。或いは先を越されているわけです。 だから、今さら後を追わないで独創的なもので勝負できたらと思うんです。 イメージとして、日本人が一番活力を持った時代っていうのは、侍という男の 集団が勃興しつつあった頃でしょう。 父が倒れれば父を乗り越え、子が倒されれば子を乗り越えて戦ったっていう激しさ。 そういう中で何かを持ってるキャラクターを作ってみたいですね。」 この、日本を舞台にしたファンタジーという構想は、次には以下のような形をとります。 「日本を舞台にしたファンタジーをつくりたいという希望は、ずいぶん前からあったんです。いわゆる時代劇とは少し毛色が違いますし、たまたま以前に描いたイメージボードも残ってるけど、今回はそれをそのままやるつもりはありませんでした。 (参考)その頃のイメージボード 本当は、あの雰囲気で映像化できれば一番良かったんでしょうが、いまは時代が変わっていて、もう少し不幸になっているという気がしたものですからね。」(ニュータイプ・マーク2より) 「城が浮かんでいる下の絵は、映画『[[天空の城ラピュタ]]』の原形にもなったものです。僕は<時代劇>を描きたいと考えていた頃「日本の城を一つの塊として扱えないだろうか」という思いをずっと抱いていたんです。」(ナウシカ水彩画集より) 「この巨大ロボットのモチーフは、後の『[[風の谷のナウシカ]]』の中に登場する巨神兵の原形となったものです。<時代劇>にSF的な要素を加えようと考えていた時に、例えば空を飛ぶものが出てくるのなら、オンボロのエンジンを直して動くような巨大ロボットというものもあり得るんじゃないかと思って描いたものです。」(ナウシカ水彩画集より) つまり、日本を舞台にしたファンタジーを構想し、「たたら場の物語」、「もののけ姫の物語」、「アシタカのような少年を主人公とした英雄物語」などをいろいろ考えていくなかから、「風の谷のナウシカ」、「天空の城ラピュタ」「となりのトトロ」などが生まれてきたわけです。 しかし、肝心の時代劇はつくれませんでした。 当時(1983年)、つくりたい企画があるかと聞かれてこう言っています。 「正直言いまして、創りたくて欲求不満でもんもんとしています。傲慢に聞こえるかもしれないけど、やりたいようにやらせてくれたら、見た人に喜んでもらえる自信はあるんだけど、当たるかどうかが全く保障できない企画ばかりなんで・・(笑)。 「(息子が)今、自己形成期になって、自立と依存の間をゆれている息子を横目で見てると、なんというか、自分の中に闇が存在しているのに気がついた頃の自分を思い出すわけですね。闇を持っていながら、だから光を持って進んでいける少年の自己形成の物語をやってみたいです。」 「もっと土地とか風土とかと密接にかかわりながら生きて戦う侍を復活させたいんです。歴史とちがってしまってもいい。暗い森と異質なものとの出会いもあって、自分の王国を築いていく者としての侍としての少年というのかな・・長年の夢ですね。」(宮崎駿イメージボード集より) 20歳の頃に初めて描いたのも、先に引用した1981年のインタビューでも、この1983年のインタビューでも、本当にやりたいのは日本を舞台にした<時代劇>であるわけです。 2.なぜ、新たなもののけ姫を構想したのか 「いつも頭の中には、僕なりの日本的なファンタジーとしてのイメージがあったんです。 しかし、時代劇というのはあくまでも様式ですから、それに乗っかって同じようなものをつくる気はないということもはっきりしていました。ちょんまげを結って刀を差した途端に、あるカテゴリーの中に否応なく収まってしまう。そんな作品を作りたいとは思わなかったんです。 もっと違う種類の主人公、違うかたちのストーリーでなければ意味がない。そんなふうに考えていくと、昔考えていたものにいろんなものが重なってきて、整理が付かなくなってしまった。 そこで、それまでアプローチしてきたいくつかの道を、いったん全部捨てて、新しく作り直したのが今度の『もののけ姫』なんです。だから、いったんどんな物になるのか、まったく見通しの立たないまま(製作に)入らざるを得なかったというのが、正直なところですね」(ニュータイプ・マーク2より) 別なインタビューではこうも言っています。 「元々、その『もののけ姫』っていうストーリーボードは、大山猫と、その嫁に出されてしまう三の娘っていう・・・・三番目のお姫さまっていう意味です。そこから 今回の”サン”をとったんですけど・・・・全然違う話だったんです。 このほうが魅力があったときもあったんですけど、自然と人間の関わりっていうものを考えていくと、その作品を今作るのはちょっと違うなと。 それから、そこでの侍の描き方がやっぱり黒澤明的だなと思ってね。あの時代的な階級史観とか、そういうものの中でできた典型的パターンにそのまま引きずられているという。 そんな単純なものじゃないという日本の歴史がわかってきているのに、ある時期リアリティがあったからといってその図式そのまま、そこから抜け出せないと いうのはね、駄目なんじゃないかと思ってね。」(風の帰る場所より) 昔のイメージを根本的に変えた理由について、他のインタビューではこうも言っています。 「それは、今、作るからです。 あの頃とは時代が違う。 僕らが直面している問題のしんどさというのは、実によく認識されていると思うんですけど・・。 まだあの頃は、日本はナンバー1になれるんじゃないかとか、ばかなことを言っ てましたよね。 それが、今、ようやく目が覚めたんですよ。我々はどこに行くんだろうと、世界中が思っている。こういう時代になっているのに、あのまま作るのは違うと思います。」(ロマンアルバム) 3.新たなる「もののけ姫」構想の最初のイメージ さて、最後は、ようやく今回の映画の企画当初の話です。 「深い森のどこかに一人だけ入り込んで、そこで鉄を造っている年寄りの男が いるんです。なんでやっているかというと、前のタタラ場の跡が、草や木に埋もれてそこにあるんです。」 −じゃあ、この映画のずっと後ってことですか? 「いや、ずっと前です。 それは恐ろしい山で、タタラ者が何度入っていっても何度も敗退していて、鉄を採ったあとの金が散乱していて富はあるのに、人々は近づいていけいないという、そういう森で。 その外れに一人タタラ者がいるという。そして、そこに一人の妖しげな少年がやってくるというね。」 −面白そうじゃないですか。 「いや、面白いんですよ。実に面白い。 で、黙ってね、矢尻かなんか作り始めるんですけど、年寄りが飯を作ってあげたら、その少年は魚の干物かなんかを引っ張り出して、そうしたら、その魚はどうも近くにはいない魚だったりするという。 あんまりものは言わなくてね。これは面白いんですけど、映画にはならないんですよ。ものすごく長くなるっていう(笑)」 「で、その少年が黙って座ってね。遠慮もしなければ、図々しくもないってい う。前からそこにいるような顔をして、そこに座ってる少年が出てくるんです よ。 それで、暗くなったときに少年の前に現われる変なものというのが出てく るんですけど、実はそれがコダマの原形なんです。 今日はずいぶん出てくるな ってジジイが思うと、どうやらその少年にも見えているらしいことがわかってね。 その小屋がどういう構造かとか、そういうのを考えるといくらでもアイディアが出てきてワクワクするんですけど、それでは映画にはならないんです。」(「風の帰る場所」より) 4.映画「もののけ姫」へ タタラ場を舞台にした物語を新たにイメージしながらも、映画としてまとめられない宮崎監督。 そのイメージがようやく固まったのが、[[「もののけ姫」企画書]]です。 ここで、注目したいのは、題名が「もののけ姫」もしくは、「アシタカせっき」となっているところ。 つまり、30年前からイメージしている「もののけ姫」の物語と、英雄アシタカの物語が、「たたら場」を舞台に融合しているのがわかります。 こうして、もともとは異なる話であった、女主人公「もののけ姫」と、英雄「アシタカ」が、「たたら場」を舞台に出逢い、「共に生きよう」と語るイメージがわいて、ようやく、現在の映画「もののけ姫」が誕生したのです。 なお、作品について、宮崎駿監督自身が語っている説明を各種インタビューから抜粋します。 ■[[なぜ、アシタカは室町時代の蝦夷出身なのか]] ■[[なぜ、アシタカは呪われなくてはならなかったのか]] ■[[森の神とは]] ■[[映画のラストについて]] ■[[なぜ、バイオレンス色が強いのか]] ■[[作品のメッセージは]] ■[[思いは観客に伝わるか]]
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