3.城の構造はどうなっているのか?そして、ソフィーは城をどうしたかったのか?なぜ、ソフィーの魔法は解けたのか?
この点を理解するには、まず、城の構造を理解する必要があります。
小説では、城に部屋が少ないことをいぶかしむソフィーに以下のような説明があります。
マイケル(映画のマルクル)「ハウルさんとカルシファーが城に見せかけて、カルシファーが動かしているんです。」
「本当はこれはポートヘイヴンの町(映画の『みなとまち』)にあるハウルさんの古い家にすぎません。城の中に本当にあるのは、その家にある部屋だけなんです。」
しかし、その家がつきとめられたため、ハウルはソフィーの家を買い取り、そこに城の本体を引っ越します。
つまり、ハウルの動く城は、実は実体ではないのです。
あくまでも、実体は、ポートへイヴンの家だったり、ソフィーの家にだったりします。
城の部屋数が増えたのも、実は、ソフィーの家がハウルの古い家より部屋数が多かったためと考えられます。
さて、では、何故ハウルはソフィーの家に引っ越したのでしょうか?
これは、もちろん、ソフィーの家で生活すれば、ソフィーの呪いを解くのに大きな前進になると考えたからです。
そもそも、ハウルは呪いそのものは既に解除していました。(参照:#なぜ、ソフィーは歳をとったり、若返ったりするのか?)
あとは、ソフィーの心の思い込み(自己暗示)をどう解きほぐすかというところがポイントだったのです。
それまで、通常はずっと老婆だったソフィーが、引越しを終えた途端に若返るのに注目してください。
引っ越して、子供の頃からの住まいに戻ったことで、ソフィーの自己否定的な暗示は解ける寸前まできていたのです。
ところが、プレゼントの花畑の中で、ソフィーが
「わたし、きれいでもないし、そうじくらいしかできないから・・」「年寄りのいいところはなくすものが少ないってことね」と言った途端、ソフィーはまた年寄りに戻ります。彼女が後ろ向きに自己否定的なことを言うと、すぐに老婆に戻るのです。
その時のハウルの、いつにない厳しい表情を見れば、引越しも、花畑も、いかにソフィーの自己暗示を解除するかを目的にしていたことがわかります。
さて、ハウルは、ソフィーの家がサリマンにばれたとき、何故か、逃げようとはしませんでした。
普通に考えれば、ポートヘイヴンから逃げたときのように、また引っ越せばよいだけなのですが・・
荒地の魔女「あらハウルじゃない。めずらしいわね。あなたが逃げないなんて。」
この言葉からも、ハウルは、いつも、荒地の魔女に家の実体を見つけられた時には引っ越していたことがわかります。
なぜ、今回だけハウルは逃げないのでしょうか?
もちろん、ソフィーの家に引っ越したことは、今までのように身を隠す引越し(=逃げ)とは意味が違っていたからです。
そうではなくて、ソフィーの自己暗示を解除することが目的で来ているから、ここから逃げるわけにはいかないのです。
しかし、それを理解していないソフィーも逃げることを提案します。
ソフィー「逃げましょう。戦ってはだめ。」
ハウル「なぜ?ぼくは、もう、じゅうぶん逃げた。ようやく、守らなければならない者ができたんだ。」
ここで、ソフィーは大きな誤解をします。
この家にいる自分達を守りたいから、ハウルは戦っているのだと・・だったら、自分がまずここから逃げれば、ハウルも逃げられると・・
実際は、そうではなくて、ソフィーが若返るのにソフィーの家が役立ちそうだから、ハウルは、もうこれ以上逃げるわけにはいかないのです。
そこまでハウルの気持ちが理解できていないソフィーは決断します。
自分達が、逃げてしまえば、ハウルも逃げられる・・
それでソフィーはドアの色を変え、荒地に行きます。
そして、こちらに逃げようとします。
ソフィー「マルクル、こっちへ来よう!」
カルシファー「ええーっ、引越し?むちゃだよ!あっちは、からっぽだよ。」
ソフィー「だめ。わたしたちが、ここにいるかぎり、ハウルは戦うわ。」
つまり、ソフィーの考えは、ハウルが逃げられるように、自分達がまず逃げることだったのです。
しかし、カルシファーが「無茶だ、あっちはからっぽだ」と言っているのは、先に書きましたように、通常、ハウルの動く城の実体は、ある家だからなのです。しかし、荒地には家はありません。
ソフィーが、城の実体を、何もない荒地に移そうといったので、カルシファーは、こういいます。
「なにが起こるか、おいらにもわからないんだ・・」
しかし、ソフィーは、ハウルのためと信じ、自分達がまず逃げようとします。
そして、城は、荒地に引っ越したために、崩壊します。
マルクル「お城、からっぽだね」
これも、もちろん、今までは常にどこかの家が実体としてあったからです。
カルシファー「だからぁ、あっちにいれば、おいらとハウルで守れたんだよ」
この言葉にソフィーは特に反論しません。ただし、自分の考えていたように、自分達が逃げればハウルも逃げられるというものではなかったという現実を認識します。
そして、ソフィーは、再度ハウルを助けに行こうとします。
「ハウルのところに行きたいの。お城を動かして」
この瞬間、ハウルの動く城は、単なる見せ掛けではなく、本当の動く城となり、ハウルを助けに行こうとします。
しかし、荒地の魔女がハウルの心臓を見つけたために、城は壊れます。
そして、ソフィーは過去の扉を開き、ハウルとカルシファーの契約の場面を見ます。
さて、明示はされていませんが、ソフィーはこの過程の中で、ずっと次のように考えていたはずなのです。
「ハウルは、守るものが出来たと言って、あの家にこだわり、逃げずに戦った。だから、私は、自分がまず逃げた。それでもはハウルはこなかった。なぜ??ハウルがあの家から離れなかった理由は??」
そして、おそらく、どこかのタイミングで答えにたどりついたのだと思います。
「ハウルは、私を守るためだけにあの家にこだわっていたのではない。私の呪いを解くために、あの家から離れられなかったのだ。私が後ろ向きな自己暗示に囚われていたから、ハウルは逃げられなかったのだ・・」
断言はできませんが、このことに気づいたのは、ハウルとカルシファーの契約を観た瞬間、指輪がちぎれた時ではないかと思います。
だからこそ、それまで過去のハウルにソフィーを導いてきた指輪は消滅し、彼女は未来へ帰ります。
(注:もともとハウルは指輪をくれた時、「お守り。ぶじに、行って帰れるように」と言っていました。これは、国王のところへ行くときのことと、過去に行くときのことを両方示していたのでしょう。国王のところから城に戻るときは、指輪は赤い色でソフィーを導き、過去に行くときは青い色で導きます。空間の移動と時間の移動に対応しているのかもしれません。)
つまり、過去への呪縛が解けたソフィーの心の変化を、過去から未来へ戻すことで表していると思います。
「わたしは、ソフィー。待ってて、わたし、きっと行くから、未来で待ってて!」
後ろ向きな志向から未来への意志の転換とその決意の表明。この一言は、宮崎アニメにとって重要なことです。(参照#なぜ、ソフィーは歳をとったり、若返ったりするのか?)
そして、未来へ戻ったソフィーは、ハウルを見て、こういいます。
「ごめんね、私、ぐずだから。ハウルはずっーと待っててくれたのに」
ここで言っている、「ぐず」「ハウルはずっーと待っててくれたのに」というのは、過去と現在の対比や、荒地から助けに戻ったことなど、時間・空間的な意味も少しはあるかもしれませんが、本質的には、ソフィーの自己暗示が解けるのに時間がかかっていたのを、ハウルは、城をソフィーの家に移したり、敵からソフィーの家を守ったりしながら、ずっと待っていたことを示していると思います。
ソフィーが魔物のハウルを見て、「わたし、あなたを助けたい。あなたにかけられた呪いを、ときたいの」といったとき、ハウルは「自分の呪いもとけない、おまえにか!」といいます。ハウルは、ソフィーが後は自分の思い込みをいつ解くのか、ずっと待っていたのです。
その後、ハウルが、家を引っ越したのも、花畑をプレゼントしたのも、逃げずにソフィーの家で敵と戦っているのも、全ては、ソフィーが自己否定的な暗示をかけるのをやめるのを、ずっと待っていたということであったのに、ソフィーは気づいたのです。
自分が否定的なことばかり考えていたことがハウルを窮地に陥らせていたことに気づいてから、彼女はもはやそのような考えをやめました。
以降、彼女が歳をとることはもはやなくなります。
ただし、彼女が白い髪をしていることで表現されているのは、彼女が、普通の若い女性に戻ったということではなく、彼女の気持ちが彼女の容姿を変えているのだということでしょう。
呪文が解けたのではなく、彼女が自分への否定的な暗示をかけるのをやめた、つまり、彼女がどのような容姿を持つかは彼女の気持ちしだいという作品のテーマが表現されているのではないかと思います。
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