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「雲のむこう、約束の場所」――“垂直”と“水平”が織りなす新海誠のユートピア【懐かしアニメ回顧録第57回】 (2019/8/17 12:00:00)
新海誠監督の新作「天気の子」が公開中だ。「雲のむこう、約束の場所」(2004年)は、新海監督の商業デビュー2作目に当たる。
設定も展開もやや難解だが、ざっとストーリーを整理してみよう。舞台は我々の住む世界とは少し異なる平行世界で、北海道は旧ソ連を思わせる巨大国家「ユニオン」によって統治され、「エゾ」と呼ばれている。主人公の藤沢浩紀は、国境に近い青森県の田舎に暮らす中学生。彼はクラスメイトの沢渡佐由理に憧れながら、親友の白川拓也と2人で、ひそかに飛行機を組み立てていた。エゾの地にユニオンが建設した、謎の塔まで飛行するためだ。
拓也がうっかり話してしまったことから、浩紀と拓也の飛行機は、佐由理にも存在が知れてしまう。秘密を共有した3人は、飛行機を組み立てながら、楽しい時間を過ごす。しかし、佐由理は目覚めずに眠りつづける不思議な病にかかってしまい、浩紀は飛行機づくりを投げ出し、東京の高校へ進学する。拓也は塔にまつわる研究機関に勤務し、眠りつづける佐由理と塔との間に深い関係があることを知る。
ストーリーの後半、浩紀は故郷に戻り、佐由理を目覚めさせるために飛行機で塔を目指す。
91分の上映時間のうち、田舎の中学生だった3人が楽しく過ごすのは前半の30分ほどだ。残りの1時間、いつもの新海作品のように、主人公とヒロインは惹かれあいながらも不条理な理由で分断されている。前半30分だけが、箱庭的な理想郷として、美しい秩序を保っているのだ。
では、その小さなユートピアの秩序は、いかにして保たれているのだろう? ヒントは、浩紀が見上げるユニオンの塔、そして通学電車。塔は垂直方向に伸び、電車は水平方向に走る。
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