エヴァンゲリオン学

 

エヴァンゲリオンには、様々な学術用語が使われております。これらは、一般に「飾り」、「衒学趣味」、「底が浅い」などと評されるだけで、物語との関連を考察しようとした試みは全くありませんでした。ここでは、この試みを「エヴァンゲリオン学」と名付け(この言い方では意味がちょっとずれますが…)、取り組んでみたいと思います。

 

[総論]死と新生の原理

1.遺伝子

第7話において、シトについての資料が一瞬現れます。その中で確認できる文字が、「アポトーシス:発生」と「アポビオーシス:生体防御」です。

 

アポトーシスとは、遺伝プログラムの中に最初から組み込まれている細胞の致死機能です。つまり、外的な傷害がなくとも、細胞が死ぬための機能です。具体的には、各指がくっついた状態である赤ん坊の手に対し、自動的に一部の細胞が破壊されることにより、各指は独立して動けるようになります。また、DNAの損傷などにより、問題が起きた遺伝子を殺すことにより、生命体としての維持を行うなどの目的もあります。

 

一言でまとめると、不要な細胞を殺すことで生命体が生きるための機能です。

 

アポビオーシスは、アポトーシスの細胞致死機能のうち、特に神経細胞に働くものをいいます。これは、「寿命」を決める機能とも言えるでしょう。

 

NERV資料において、アポトーシスが発生と結びついているのは、おそらくアポトーシスの形態作成機能(不要な細胞を取り除き生命体としての目指す形状に到達する)を意味しており、アポビオーシスが生体防御と結びついているのは、シトは自らのアポビオーシスを抑えることができる(寿命がない)ことと共に、外敵に対しての攻撃力にアポビオーシスを転化することができるということでしょうか。ただし、自爆的行動を見せたシトもいることから考えるとシトにとってはアポビオーシスも自分に向かうことがあるようです。

 

結局、シトの分析において、アポトーシスとアポビオーシスが第一に登場していることは、シトの驚異的な生命力および攻撃力はこれらの機能を自在に活用していることからきていると言うことでしょう。

 

アポトーシス、アポビオーシスの他に、エヴァで登場するのはネクローシス、マイトーシスなどです。ネクローシスは、アポトーシスとは異なり、外的な障害などによる細胞死を表し、マイトーシスは細胞分裂を表します。NERVにおいては、赤木博士のもと、エヴァンゲリオンのアポトーシス作業、マイトーシス作業、ネクローシス作業などが行われていました。

 

これらの言葉から推測されるエヴァンゲリオンの生体部分に関してのコピーおよび維持の作業の内容は、

・マイトーシス作業による細胞の分裂

・アポトーシス作業による不要部分の除去および問題がある部分の除去(生体の形成・維持)

・ネクローシス作業による不要部分の破壊

などの組み合わせによるのでしょう。

 

以上、シトおよび、エヴァにとってそれらの機能が重要であることと、どのような目的で使用されているかはおよそ想像つくのですが、17話においてシンジらのパーソナルパターンを見てみると、驚くべきことに、なんとここでもアポトーシスパターンやアポビオーシスパターンが記録されています。

つまり、エヴァの生体維持だけでなく、パイロットの管理もアポトーシス・アポビオーシスなどの観点から行われているわけです。

人工培養するならともかく、なぜパイロットのアポトーシス・アポビオーシスが重要なのでしょうか。これには、以下のような観点から考える必要があると思われます。

 

 

2.精神分析

第20話のグラフや、第26話において、デストルドーとリビドーという言葉が現れます。

 

26話 青葉「心理グラフ、シグナルダウン」

    日向「デストルドーが形而下されていきます。」  

    冬月「これ以上は、パイロットの自我がもたんか」

 

デストルドーとは、無への本能(死への本能)であり、破壊する力。

リビドーとは生への本能(性の本能)であり、結びつける力を意味します。

エヴァンゲリオンとは、ある意味で、シンジおよび人類におけるデストルドーとリビドーの間の揺れ動きの世界です。20話におけるシンジの内面におけるデストルドーとリビドー、26話における人類規模でのデストルドーとリビドーなど。

なお、夏の映画の主題歌「タナトス」もデストルドーと同義です。リビドーとデストルドーは、ギリシア神話風に言えばエロスとタナトスとなります。

 

なお、フロイトはもともと自我保存欲動と性的欲動(リビドー)の対比を考えていましたが、第一次大戦における手足を失った兵隊たちの夢や、子供の遊技などの分析から、死への本能という観念に到達しました。これは、正確に言うと、エネルギーの乱れ(動き)をなくそうとする本能なのですが、その行き着くところは生まれる以前に戻ることであると考え、死の本能と名付けたのです。

 

さて、前章でふれましたように、遺伝子レベルにおいては、生体維持のための細胞死機能がアポトーシスであり、生体の寿命を決めるための細胞死機能がアポビオーシスでした。これらのパイロットデータが必要であったことと、リビドー、デストルドーのパイロットデータが必要であることを考えると、おそらく、この2者にはエヴァンゲリオンを動かすうえでのなんらかの関係があると思われます。

両者の関係は十分に明確ではありませんが、おおまかに言うと、

         遺伝子     精神

生への本能   アポトーシス   リビドー

死への本能   アポビオーシス  デストルドー

 

と言った方向性が見えてきます。

 
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