●たったひとつの冴えたやりかた

 

大森 じゃあ、これからの話というのをちょっと。LDは毎月1枚、2話ずつ出てますよね。後半はかなり直すんですか?

 

庵野 弐拾壱話からは、できるかぎり直そうかと。

 

大森 それはどういう心境で?

 

庵野 削ぎ落とした部分がけっこうあるんですよ。あのあと、ロボットほとんど出てこないんですけど、なんでかっていうと、ロボット描ける人もういなかったんですよ。

 

大森 みんな、倒れて。

 

庵野 いや、拾九話でみんなで作画して。

 

大森 もう、ロンギヌスの槍を投げたところでばったり、みたいな。

 

庵野 まあ、ほんとにそうです。そのあと弐拾四話でちょこっと出て。ああ、ライブ感覚っていうのはそこまで含めてなんすよ。今、誰が手伝ってくれるのかという。スタッフをいちばん有効に使うという。

 

大森 そこにいるバンドのメンバーで演奏するしかない。

 

庵野 6−4−2−2のストリングスがいなくなってしまったら、もうペットだけでやるしかないっていう、今日はソロでギターを弾くしかないとかですね。フルオケで始める予定が10人ぐらいしか集まんなくって、最終的に残ったのが3人だったら3人でできる演奏を続けるしかないんですよ。ときどき、ほかの人がきてくれれば、それに合わせて曲目を変えるっていう。

 

大森 3人しかいなくても同じ曲をやるっていう選択肢もあったわけですよね。たとえばリツコのナレーションとか、リツコとゲンドウのかけあいとか、セリフだけを使ってえんえん謎ときをやるみたいな方法もなくはなかったんでしょうけど、そうじゃなくて演目をがらりと変えたっていう感じですか。

 

庵野 いや、もう演目を変えていくっていうか、その時々に合わせていちばんいいものをやっていくだけですよね。コスト・パフォーマンスを最優先で考えてるんですよ。

 

大森 では、そのLD版に関しては、ふたたびストリングスを呼んできて。

 

庵野 まあ、ちょっと余裕ができましたんで、それぐらいはやろうかと。やっぱりスタッフも全部吐きだしてるわけじゃないんですよね。なんかこう、残ったものがあるんだったら、それは全部吐きだすのがいいんじゃないかと。とにかくエヴァンゲリオンを始めるとき、ひとつには、やりたいことをやってみんなすっきりするっていうのがあったんですね。

 

大森 スタッフがですね。

 

庵野 ええ、もちろん、スタッフが。だって、安い金なんすよ、これ。テレビですからね。テレビのカテゴリーをはるかに超えているんすよ。ふつうやってくれないんですよ、こういう仕事を。それを、ただおもしろそうだからっていう1点においてやってくれるわけなんすよね。それはそうとうキツイ作業なんすよ。ぼくが上げてくるコンテがつまんなければスタッフ降りるっていうことですからね。お金のつながりじゃないんですよ。作品のおもしろさだけだったんですよね。それでもやはり、”食う”っていうことを考えれば、そうとう辛い作業だったんで。まあ、これに関してはLDがおかげさまで売れてますんで、スタッフのほうにもできるかぎり還元していきますけど。それは、これからやらなきゃいけないことだと思うんですよ。別に他の作品みたいに脚本家だけに金をまわすことはないと思いますよ。

 

大森 では一応なんていうか、正当な労働対価が保証されたところで、LDは?

 

庵野 まあ、正直いってしまえば、弐拾伍話、最終話って、ものすごいたいへんな内容、用意してたんですよ。もうこれ以上は無理だというのがあったんですよ。ぼくのいつものパターンからいえば、最終回1個前っていうのは、最大限のドンパチやっちゃうんですよ。

 

大森 うん、そうですね。

 

庵野 拾九話を超えるドンパチっていうのを、拾九話の半分のスタッフで、4分の1の時間でできるはずがないんですよね。そうなると、ぼくのずるさっていうのがありまして、これはほんとにずるい部分だと思うんですけど、5点のものを出して馬鹿にされるよりはマイナス100点のものを出して壊したほうがいいと思うんですよ(笑)。ぼくにとってこの方が精神面では楽だったんですね。結果としてはものすごい傷つきますけど、もういいっすってやつで。その時は5点のものを不本意に出すよりはマイナス100点の方を。まあ、これはぼくのタイプだからしょうがないんですけど、自分では大っキライなんですね。1000ピースのジグソーやってて、最後の1個が見つかんないってときに、それを全部ひっくり返しますから。

 

大森 なるほど。

 

庵野 自爆タイプなんすよ、ぼく。まあ今考えれば、そういうのもあったっていう。

 

大森 そういう意味では実に庵野さんらしい結末のつけ方ではあったと。

 

庵野 まあ、そうなんですね。

 

大森 その意味においては満足してる?

 

庵野 その時はですね。今はいろいろ考えることがありますけど。

 

大森 まだ満たされてない思いを抱えてる人にもいいことはあるかもしれない。

 

庵野 ないかもしれない(笑)。

 

大森 それはLD版の完結を待ってほしい、と。

 

庵野 一応、リリースは来年の2月までの予定っす。まあ、どうなるか全然わかんないすけどね。

 

大森 残念ながらもう時間が来てしまいましたが、結論としては、まだエヴァンゲリオンは終わっていない?

 

庵野 んー、いや、1回終わったんすよ。でももう1回始めなきゃいけないんすね。で、それ終わったらまたもう1回始めなきゃいけないんですよね。こりゃ、キツイっす。

 

大森 エンジンはかかりはじめてるんですか?

 

庵野 いや、スターターまわしてんですけどね、なかなかかかんないっすね。

 

大森 それを楽しみにしたいと思います。どうも、長い時間ありがとうございました。

 

庵野 ありがとうございます。

 


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