「加持はそもそも何のためにネルフにきたのか」
内務省調査部にも所属している加持。しかし、映画で日本の首脳部がゼーレの報告を検討することさえしなかったことから明らかなように、内務省調査部とは事実上ゼーレの指揮下に動いておりました。加持はベークライトで固められたアダムをネルフに輸送するのを機にネルフに監査としてとどまります。
さて、では彼の仕事は何だったのか。第10話ロープウェイ内での会話は彼が、ネルフが強権を発動するのを止めなかったことをとがめられ、ネルフを弁護していることがわかります。また、初号機が覚醒したあとに、ゼーレのメンバーが、それを問題にしていた際(20話)、「ならない鈴に意味はない」という発言があります。これらのことからわかるように、彼は、ゼーレが期待しているシナリオ以外のかってな行動をネルフにとらせないようにすることが任務であったことがわかります。
しかしながら、上記のどちらの場合にも、彼はネルフの動きを止めようとさえしませんでした。それどころか、初号機覚醒後のゲンドウとの会話からもわかるように(20話)、彼は、ネルフがゼーレの目をかいくぐって独自のシナリオを実行することを、知っていながら支持していました。これは、彼の任務から考えると、あきらかに、背任行為であります。
「冬月誘拐事件」
ならない鈴であった加持。ならない鈴に意味はない。今度は彼に動いてもらおう。と、ゼーレは加持に冬月の誘拐を命じます。その日、加持は「これが最後の仕事か」とつぶやき、ミサトに留守電をいれた後、死を覚悟して誘拐を実行します。この誘拐はゼーレによる指令であり、ゼーレがネルフの上位組織であることを考えると、必ずしも加持個人がネルフからうらまれるような行為ではありません。さて、ゼーレが冬月を尋問したあと、加持は隙をみて見張りを眠らせ、冬月を逃します。このとき、冬月は加持にいいます。「この行為は君の命とりになるぞ。」この言葉が意味するのはふたつあります。
1.今までの行為(冬月を誘拐したこと)は、命とりにはならないということ。
これは、やはりゼーレがネルフの上位組織であること、加持が何度もネルフをゼーレの追求から守ったことなどから考えて当然でしょう。
2.冬月を逃すということは、ゼーレへの裏切りを意味し、それは加持に死をもたらすということ。
加持がスパイであることはゲンドウには最初からわかっていたことでした。だからこそ、「泳がせる」という発言もありましたし、19話のように戦闘時にはずされていたのです。しかしながら、スパイ行為を働きながらも加持が無事であったのは、彼が上位組織ゼーレから派遣されている人間であり、ネルフに彼を殺す権限はないということと、彼がネルフのシナリオを一切邪魔しなかったことによります。しかし、加持がゼーレそのものを裏切った場合はどうでしょうか。彼が生きていられたのは、まさにゼーレの庇護にあったからであり、ゼーレを裏切れば、ゼーレは彼を抹殺するでしょうし、匿ってくれる組織はどこにもありません。
以上が、冬月の発言の意味です。つまり、彼を殺す動機及び権利を持っているのはゼーレだけです。
「加持殺害」
加持の殺害の前に、ネルフ諜報員がミサトを解放すると共に、加持に関しては「存じません。」と答えています。この発言も多くの議論を呼んだ発言です。つまり、すでに殺したあと、そういっているのか。本当に知らないのか。ここで注意すべきは、どちらの場合でも諜報員の発言は同じだろうということです。つまり、本当は知っていても「存じません」というでしょうし、知らなくても「存じません」としか言いようがないでしょう。
しかし、大事なのは、「事件は解決しました」と言って、ミサトを解放した点です。つまり、ネルフ諜報員にとっては、冬月がもどった時点で事件は解決と考えていることです。フィルムの流れにしたがうならば、この時点ではまだ加持が殺されていないことを考えると、ネルフにとっては冬月が戻った時点で事件は一段落ついたのであり、加持の捕獲もしくは殺害は考えていなかったことになります。ネルフが加持を殺害しようとしていれば、殺害後に「事件は解決」発言をし、ミサトを解放するでしょう。ネルフが加持の殺害を意図しなかったことは、彼が以前スパイ行為を働いていても殺さなかったことと同じ理由であります。つまり、ネルフにその権限はなかったということと、加持は常にネルフ側の行動をとってきたことです(今回もゼーレの命により冬月を誘拐したのち、個人の考えで逃しました。)以上の理由により、ネルフには加持を殺す理由はなかったと思われます。
しかし、この点については、いままでも多くの議論がありましたし、フィルム構成は演出として逆にしてある(つまり、フィルムと異なり事実上は、加持の殺害のあと、ミサトを解放した)という考えの方もいるようなので、少々補強しておきます。
ここでは、脚本に注目したいと思います。もちろん、脚本段階とテレビではストーリーに変更が加わる可能性はあります。しかし、ひとまず脚本の説明をしますと、加持が冬月を逃したあとで、諜報員はゲンドウに対し、「副指令が戻りました。随行員は依然不明です。」というシーンがあります。その後にミサトの解放シーンとなり、諜報員の発言「事件は解決しました。」「(加持については)私は存じません。」とつながります。つまり、ネルフは、ゲンドウも諜報員も含め、誰一人加持の居所を知らなかったのです。さらに、冬月が戻ったため、事件は「解決」と考えている点です。ということは、もちろん、ネルフ関係の人間が加持を殺す理由も手段もありません。
さて、脚本からテレビに移る段階で設定が変更された可能性はあるでしょうか。変更された点はいくつかあります。諜報員のゲンドウへの報告場面のカットと、「私は存じません」が「存じません」になっている点の2点です。しかし、行われた変更は、このように省略だけです。ネルフ関係の人間・組織が殺したことにするような、積極的なストーリー変更は1カ所もありません。もし、殺害者の変更という、大きな設定変更があるとすれば、なんらかの反映がみられるはずです。ということは、脚本からテレビになる時点においても、基本設定は変わっていないと思われます。
さて、ではネルフが加持の動きを見失っていた(諜報2課を煙にまける男でもあるが、事件は解決発言からみて真面目に探す気すらなかったと思われる)のに対し、加持の動きをはっきり知っていたのは誰でしょう。言うまでもなくゼーレです。23話のゼーレの発言に、「冬月をおとなしく返した意味のわからぬ男でもあるまい」というセリフがあります。つまり、ゼーレは加持が見張りを眠らせ、冬月を逃そうとするのをリアルタイムで知っていたのです。ただし、冬月についてはすでにネルフに帰すという結論がでていたため、黙認したのでしょう。しかし、裏切り者の加持を放っておくはずはありません。
ゼーレからみれば、これ以前にも何度も加持へ不信感を持たざるをえないような行動があったため、この冬月誘拐事件の目的の一つは加持の行動をみることにあったと思われます。おそらく、すぐに追跡は始まりました。もちろん、加持も追われていることに気づいたでしょう。加持は逃げ切れるとは最初から考えていませんでした。冬月誘拐が命ぜられた時点で、ゼーレの意向はどうあれ冬月をネルフに逃がすつもりだったのでしょう。その結果ゼーレに殺されることはわかっていました。だからこそ、ミサトにメッセージを残したわけです。テレビ版では冬月を逃す理由について、「自分の中の真実に近づきたい」といっており、脚本だとさらにつっこんで「ネルフの方が真実に近いようですから」といっております。彼はゼーレの補完計画よりネルフの補完計画に共鳴したからこそ、最後までゼーレがネルフのシナリオを邪魔できないように動いていたわけです。
最終的に、加持はゼーレの諜報員と対面することになります。同じ仕事ですから、顔見知りであった可能性も高いのですが、例えそうでなくとも冬月を逃して以来ずっとおわれていたわけですから、自分を殺しにきたことはすぐわかったでしょう(諜報員は複数人いた可能性も高い)。その暗殺者達に対して、殺される直前に「よお、おそかったじゃないか」と軽口をたたけるところが、加持という男のかっこよさではないでしょうか。
オープニング最後のシーンについて
オープニングの最後に謎の文字が現われます。現在わかっている範囲でまとめてみました。
1.絵コンテよりわかること
オープニングの絵コンテにおいては、謎の文字は初めの方と最後の、2箇所において出てきます。
それぞれ、「天使の文字」と注釈がしてあり、後者の方には「エッセネの持つ死海文書の1ページ」と記されております。ちなみに後者の方の文字はテレビ版のオープニングの最後の文字と全く同一であり、右下のくすんでいる所について「こげた跡とかもある」と記されています。
つまり、あの謎の文字は、死海文書に記されている天使文字なのです。
なお、天使文字とは、いわゆるエノク語であり、天使の文字としてオカルト文献などに多数存在するものです。ただし、いわゆるエノク文字とされているものと、ここに使われている天使の文字が同じであるかどうかはわかりません。私の見た限りでは同じものはありませんでした。しかしながら、エノク文字もいろいろありますので、どこかで使われているものと同じかもしれません。
なお、絵コンテ版で登場する文字は1カットにつき8文字であり、2箇所で合計16文字です。重複はありません。
また、どちらも、単に死海文書の1ページであるわけですから、あの文字自体や、その並び自体には意味はないと思われます。文書の中のたまたま1ページにあの文字が並んでいただけでしょう。アルファベット8文字ではせいぜい単語1〜数個でしょうから(天使文字は普通アルファベットに置き換えられます)、あの文字自体では意味をもたず、他のページの文字と合わせて初めて意味を持つと考えられます(もっとも、呪文のように使われる可能性はある)。
2.二つの死海文書
死海文書では、使われているのはヘブライ語などです。天使文字による死海文書は存在しないことを考えると(ついでに、監督が死海文書のいい所は隠された部分がある所といっていることも含めて考えると)、
死海文書=ヘブライ語などで書かれ、現在アカデミックの手によりある程度翻訳されている。
裏死海文書=天使語で書かれている。現在発見されていない。死海文書では未発見の部分および行方不明になった部分も多く、ここに相当すると思われる。
3.裏死海文書の内容
現実の死海文書とは全くことなり、実は単にゼーレの予定表のことではないかという意見も聞かれますが、こげた部分が残ること、かなり年代ものであることなどから、やはり、太古に書かれた文書であることは間違いないと思われます。
脚本版、絵コンテではゼーレはエッセネと呼ばれており、死海文書を所持していた教団と同一視されていることを考えると、死海文書と裏死海文書とは、基本的にはどちらも同じエッセネ派が所持していたと考えられます。
内容的には、ゼーレの行動が裏死海文書を指針としていることから、また、ジオフロントが何者かが残した巨大な球状空間であることから考えて、
1.黒き月(リリスの卵)および白き月(アダムの卵?)およびファーストインパクトの説明
2.使徒が現われることおよびその数
3.ロンギヌスの槍、生命の樹などの説明
などが記載されていると思われます。
結論
オープニングの最後の文字は、天使語でかかれた、裏死海文書の1ページである。裏死海文書にはゼーレの行動のもととなった事実(リリスの卵、使徒など)が記されている。
(参考)
以前掲示板で、謎の文字は、企画段階で存在した古代遺跡アルカの流れを引きずっているのではないかと書きました。最初のプロットで存在していたアルカが無くなったために、あの古代文字自体も出番を失ったのではないかと。
しかし、のちに、あの文字は死海文書のものであることが絵コンテからわかり、別の資料からジオフロントの中心がアルカと呼ばれていたことがわかったため、アルカはなくなったのではなく名前が変わった(もしくは消えた)だけで、設定そのものはリリスの卵として残っていることがわかりました。
ということで、上述のような内容でまとめました。
もちろん、この文字がビデオ版12巻以降で出現する可能性はあります。その時は設定がまた変更されているかもしれません。
映画「The END of EVANGELION」において、最終的にエヴァ初号機は宇宙へと去って行きます。
「さようなら、母さん」
エヴァ初号機の顔が醜い化け物のようなものであるのは有名ですが、この時の顔はどうでしょうか。
贖罪の儀式が行われた時に、量産エヴァには、どれにも顔ができております。女性的な、マンガっぽい(諸星大二郎で見たような)顔です。そして、自分達にロンギヌスの槍を突き刺して行きます。
ところが、初号機だけは装甲具をつけているために、顔が変っているのかどうかわかりません。そして、最後まで顔を見せることなく、宇宙へと消えて行きます。
しかし、他のエヴァに顔の変容が見られた以上、初号機の容姿に変容があってもおかしくないのではないでしょうか。
その答えは、絵コンテにありました。宇宙に飛び立つエヴァ初号機の後ろ姿に、「装甲具がとれ、髪をなびかせるエヴァ」というコメントが書いてあるのです。
つまり、エヴァ初号機の顔も変容し、長髪となっていたわけです!
(もっとも、映像で確認する限り、緑色がもやもやしているぐらいで、良くわかりませんが)
ここで思い出されるのが、「それをなすもの」に含まれていたエヴァTV版最終回案のひとつです。ここでは、装甲具で閉ざされているうちに、ゲンドウもシンジも気付かないうちに、エヴァの容姿は変化し、巨大な女性(ユイ)のものとなっています。
このアイデアはTV版ではボツになりましたが、映画版の最後で、やや消極的ながら採用されたのかもしれません。
しかし、ひとつ疑問があります。ユイは短髪であり、なびかせるような髪の持ち主ではありません。つまり、ユイの顔ではないわけです。一体、どんな容姿にエヴァはなったのでしょうか。
おそらく、その答えは16話においてシンジが亜空間に捕らわれたシーンにあると思われます。ここで、シンジは死を覚悟します。
「もういい、疲れた」
そこで、裸でうずくまるシンジに、女神のような女性が近づき、包み込もうとします。
「母さん?」
この時の女性は、なびかせるにふさわしい長髪を持っております。
そして、実際、このどちらのイメージも、髪をなびかせながら宙を飛んでいます。
アダムとユイ(シトとヒト)が融合したことによる、新しい、別個の人格と表情を持った女神エヴァ。
16話、26話という重要なシーンでのみ、その顔の片鱗を見せた女性の顔。この2シーンで、シンジがエヴァを「母さん」と呼んでいることにも注目してください。
ユイの顔とは異なりますが、これこそが、新たなる人類の母としてのエヴァの本当の素顔なのでしょう。