アニメがつまらなくなったのは、「新世紀エヴァンゲリオン」のせいである(サイゾー2006年11月号より抜粋)

 


大月さんは、「月刊ニュータイプ」10月号のインタビューで、「新世紀エヴァンゲリオン」ブームの影響で、アニメ界によけいな誤解や混乱が生まれ、粗製乱造を招いてしまった」とおっしゃってましたね。ブームの仕かけ人が自らこのような発言をするのは、ファンにとっては大変ショッキングな”事件”だったと思うのですが。

大月 僕自身、「よくも言ったもんだ」と思いましたよ。「いちばん粗製乱造してきたのは、自分じゃないか」って(笑)。けれど、この現状に対する批判は、やはり誰かが言わないといけない。

−批判は覚悟で、敢えて問題提起を行なったということですか?

大月 粗製乱造といっても80年代のアニメと比べると、作画の質は段違いによくなっているんですよ。でも、企画が貧困なんです。『エヴァ』がテレビに登場してから、アニメ業界全体が『エヴァ』の呪縛の中で動いてきてしまったという弊害があります。

具体的には、『エヴァ』のヒット以降、アニメ業界では作品の質じゃなくて、すべて売上の数字で判断されるようになってしまった。その結果、本来の顧客であるはずの中高生を置き去りにして、お金を落としてくれる30代のマニアへ向けた「萌え」アニメが深夜枠を中心に氾濫している。

これが現状です。でも今年、「涼宮ハルヒの憂鬱」っていう「学園萌え」の決定版が出ちゃったんで、もうDVDの売上的にはピーク、あとは下がるだけでしょうね。このままでは、アニメに未来はない。なぜかというと、今の中高生はアニメなんか馬鹿にしちゃって、見ていないからです。本来アニメは、子供にみてもらうものじゃないですか。

それがいつの間にか、「萌え」が売れるからって、アニメ業界があこぎな商売にしてしまった。マニアへ向けたアニメ作品を見ている層が20代〜40過ぎというのは、少し偏りがあると思います。『エヴァ』以降、本来あるべき姿から、みんな地軸が狂っちゃったんですよ。

そして、これはすべて、我々メーカー、アニメプロダクション側の罪であり、『エヴァ』の功罪でいうところの「罪」の部分です。「功」はありません、あるとしたら作品としての評価、それだけです。

−そんな状況で、また来年初夏から08年初夏にかけて、テレビシリーズ版『エヴァ』を再構築した「エヴァンゲリオン新劇場版」を4部作に分けて公開するわけですが、その意図とは?多くのファンが大月さんや庵野秀明監督に期待しているのは、「第二の『エヴァ』」なのであって、「『エヴァ』のリメイク」じゃないと思うのですが。

大月 よく誤解されるんですが、実はこの12年間、僕からは一度も「『エヴァ』の続編をやろう」と庵野さんに言ったことはないんですよ。

あまのじゃくな人なんで、そんなことを言えば、たちまちやる気をなくしますからね(笑)。
でも、やっと庵野さんから「『次のエヴァ』をつくるための”土台”を、まずつくりたい」という言葉をもらったんです。

−つまり、今回の新劇場版は、あくまでも「次の『エヴァ』」に続くための、地ならしだと?

大月 そうですね、あまり言うとネタバレになっちゃうんですが(笑)。12年前の『エヴァ』では、あの頃の社会状況や庵野さんの内面の問題があったりして、特に劇場版は「世界が破滅して、シンジとアスカだけ生き残る」という破滅的な形で終わりましたから、あの続きはありえないんですよ。

けれど12年がたち、年代がひとまわりしたことで、庵野さんの中で整理がついた。新劇場版は、ある意味ハッピーエンドの『エヴァ』、一言で言うならば「希望に至る物語」になるはずです。

−ただ、それを聞いて心配なのが、”悪い意味”での「ガンダム」みたいに、今後、『エヴァ』の続編ばかりがつくられるようになったりはしないかです。

大月 庵野さんは、”いい意味”で『ガンダム』にしたいと言っています。結局、特撮には『仮面ライダー』『ウルトラマン』というスタンダードがそびえ立っているのに、アニメ界には『ガンダム』しかない。ですから、この劇場版で『エヴァ』をアニメ界のニュースタンダードにしたいということです。

制作スタジオもガイナックスではなくて、スタジオ・カラーという新しい会社を中心に作ります。

−では、大月さんは今回の『エヴァ』新作劇場版で、『エヴァ』が腐敗させたアニメ界に、何をもたらしたいとお考えですか?

大月 まず何より、中高生を「『エヴァ』って面白そうだね、見に行こうよ」って気持ちにさせることですね。最近の中高生はお小遣いのうち、月に5000円近くが、モバイル、パケ代で消えていくんですから、アニメのDVDなんて買えるわけないんですよ。

そこで、「だから、DVDを買ってくれる30代向けの、萌えアニメでいいんだ」という倫理の崩壊。
僕ら業界人はこうやって、いちばん大切なことを全部見逃してきたんですよ。

エヴァ以降、作品づくりよりも、「やれ興行収入が何億円だ」、やれ「会社が上場して、株価がこれだけ上がった」ということばかり気に書ける人が、アニメ業界に一気に増えました。

正直、へどが出る。そんなことばかり言っていたら、この業界はそろそろやばいでしょう。

−自ら業界に渇を入れる、ということですね。

大月 『エヴァ』以降の12年で、僕自身がいちばんダメになったと、本音では思っています(苦笑)。だから、今ここでもう一度『エヴァ』を作ることで、無作為・無目的だった自分の12年間にもケリをつけたいんですよ。

先日、スタジオ・カラーの会社開きがあったんですが、庵野さんも、貞本さんも、鶴巻さんも、みんなやる気満々で、楽しそうで、僕がこの12年間、たくさんのアニメに関わってきた中で無かった感覚がこれだなって思いました。

ああいう少年のような瞳をした40代の男ってカッコイイですよ。これはいいスタジオになるし、いいフィルムになる。作画も完全新作でやるので、楽しみにしておいてください。

−そういう大月さんも、44歳とは思えない瞳の輝きぶりです(笑)。公開、楽しみにしています!



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