「まごころを、君に」でのシンジとアスカについて

  後編:2度にわたる首絞め無抵抗について


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7.「首絞め無抵抗」検討材料

  なぜアスカは首絞めに対し無抵抗なのか?
  あんなに「死ぬのはイヤ」と言っていたのに………
  検討するための材料はTVシリーズにも劇場版にも多分ありません。「母によるアスカへの首絞め」を妄想し、首絞めに対するアスカのトラウマを想像することは可能ですが、これは妄想の上に妄想を重ねる危険な行為になります。

   しかたがないので劇場版周辺に材料を求めるわけですが、無抵抗の回答と思えるものが存在しました。ご存知ですね、「甘き死よきたれ」です。

  ----補足資料に英詩、原詩、英詩意訳(コピー)を載せておきました
  ----原詩の大意:「もうヒトも自分も傷つけたくない、死んでしまいたい」です。

  これをアスカの心情として全面的に採用します。
  採用理由
  ・わざわざカントク自ら原詩を書いた以上なんらかの意味はあるはず。
   これはもちろん直接アスカとのかかわりを証明するものではありませんが
  ・この曲は首絞め直後BGMとして始まり、「でもあなたとだけは絶対に死んでもイヤ」
   このアスカの台詞とともに終わります。アスカを意識していると思います。
  ・「だいっキライだから。」  アスカを意識した言葉
  ・「優しさはとても残酷 心を委ねたら、私は壊れてしまう
    心が触れ合えば、あの人は傷つく」
    キッチンの場での顛末と見ます。
  そしてなによりもキッチンでのアスカの罪を念頭において、この詩をキッチン以後のアスカの心情と考えた場合、アスカの不可解な行動は全て簡単に説明できてしまいます。
  これが最大の採用理由です。


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8.「首絞め無抵抗」


   ふたたびキッチンに戻ります。
   たましいのふれあう場で首を絞められた(接触した)わけですから、今度はシンジの手からアスカに「凶悪性」が逆流します。アスカは一瞬でこれは自分がシンジに流してしまったものだと悟ったようです。自らの醜さ、汚さ、凶悪さを思い知らされ自己嫌悪し「甘き死よきたれ」の心境に至ったと考えます。
   死にたいのですから抵抗はしません。

   特殊な舞台を用意しアスカに「気づく機会」をあたえる。カントクの意図だと思います。
   「たましいの溶け合う奇妙な場」(他人を鏡として自分自身を見せつけられる場)は多分このために必要だったのです。


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9.「でもあなたとだけは絶対に死んでもイヤ」


   口調は憎まれ口ですが、好きな少年に醜い自分をさらし、彼を汚してしまうことは絶対にイヤだったと思います。自分にはシンジとひとつになる資格などないと思っています。

   ちょっと溶け合っただけで最悪の結末でしたから……

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10.浜辺


   キッチンは二人のたましい同士の実体験ですから現実に戻っても二人とも首絞めを記憶しています。

   首絞め無抵抗:死にたいから無抵抗
   ほほ撫で  :アスカのなかで死ぬことは決定しています。やめさせる気は毛頭ありません。
   シンジの手に力が入りもうすぐ死にます。死ぬのはかまわない、かまわない。
   けど死ぬ前にせめて「お別れ」ぐらいしたいじゃないですか。
   シンジが好きなんだから、ユイもそうしたし。
  @「気持ちわるい」:シンジを寄せ付けない言葉。
        好きになってはいけない、嫌われなければならない。
        ふれたらまた壊れてしまう。彼を傷つけてしまう。

  A「あんたに殺されるなんてまっぴらよ」:本心と真逆のうそ
        「死にたいのぉ殺してよぉ」などと甘えて心を委ね相手を困らせる気はなくなったようです。

   @Aいずれにしてもシンジを想い本心を隠した言葉です。相手との心の距離を計り始めています。第八話で登場して以来初めてのアスカの成長。最後の最後にようやく彼女はヤマアラシをやめたんだと思います。

   「気持ちわるい」直前のアスカの顔を見てやってください。やさしいたおやかな顔です。
   贖罪を終えた彼女に与えられたカントクからの唯一の祝福のように思えます。

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11.妄想編

   これまでは多少なりとも根拠があることを書いてきたつもりですがこれは根拠のない妄想です。

   LCLからアスカを引っ張りあげシンジの横に横たえたのはレイです。
    ----天国にいたアスカが再生したわけですからミサトもリツコもいずれ再生するでしょう。
    ----レイが迎えたたましいが再生すると考えます。カジはだめでしょう。
   包帯を巻いてあげたのもレイです。シンジが目を覚ます直前のことです。

   肉体を失い全能の妖精となったレイは全て承知したうえでシンジに最良の相手を用意してあげたのではないかと思います。アスカはいまだ暗い心境の底(偽りの安息・甘き死よきたれ)にひとりたたずんでいますが、いずれ二人は幸福をむかえると思います。
   全能の妖精のすることに間違いがあろうはずがないのですから。



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12.補足
   この解釈だとゼーレの補完計画は「よりしろ」まかせのあまりにずさんな計画となってしまいます。シンジが「お菓子の国の王子様」を願い満足してしまったらどうするのか………
    まあ「欠けた自我」は紆余曲折しながらも最終的にはATフィールドの無い世界を目指すと考えていたとしましょう。実際一旦そうなったし。
   このへんで手を打ってください。





補足資料

以下の英詩、原詩、個人日本語意訳は、ネット上で見つけたものですが、どこで見つけたのかわからなくなってしましました。
見つかりしだい、そちらにリンクを貼ることにしますが、それまで暫定的に掲載させていただきます。
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甘き死よ、来たれ

Music: Shiro SAGISU, 原詞: 庵野秀明, Translation: Mike WYZGOWSKI

シングル:「THE END OF EVANGELION」/キングレコード
(映画完結編、リリスの巨大化と、十字架乱舞時のBGM。)

原詞

I know, I know I've let you down
I've been a fool to myself
I thought that I could
live for no one else
But now through all the hurt and pain
It's time for me to respect
the ones you love
mean more than anything
So with sadness in my heart
(I) feel the best thing I could do
is end it all
and leave forever
what's done is done it feels so bad
what once was happy now is sad
I'll never love again
my world is ending

I wish that I could turn back time
cos now the guilt is all mine
can't live without
the trust from those you love
I know we can't forget the past
you can't forget love and pride
because of that, it's kill in me inside

It all returns to nothing, it all comes
tumbling down, tumbling down,
tumbling down
It all returns to nothing, I just keep
letting me down, letting me down,
letting me down
In my heart of hearts
I know that I called never love again
I've lost everything
everything
everything that matters to me, matters
in this world

I wish that I could turn back time
cos now the guilt is all mine
can't live without
the trust from those you love
I know we can't forget the past
you can't forget love and pride
because of that, it's kill in me inside

It all returns to nothing, it just keeps
tumbling down, tumbling down,
tumbling down
It all returns to nothing, I just keep
letting me down, letting me down,
letting me down
It all returns to nothing, it just keeps
tumbling down, tumbling down,
tumbling down
It all returns to nothing, I just keep
letting me down, letting me down,
letting me down

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日本語原詞

不安なの。
不安なの。
みんなに嫌われるのが、怖い。
自分が傷つくのが、怖い。
でも、ヒトを傷つけるのが、もっと怖い。
でも、傷つけてしまう。
好きなヒトを傷つけてしまう。
だから、ヒトを好きにならない。
だから、自分を傷つけるの。

嫌いだから。
だいっキライだから。

好きになっては、いけないの。
だから、自分を傷つける。

優しさはとても残酷
心を委ねたら、私は壊れてしまう
心が触れ合えば、あの人は傷つく

だから、私は壊れるしかない
無へと還るしかない

無へと還ろう
無へと還ろう
そこは、優しさに満ち満ちたところ
そこは、真実の痛みのないところ
心の揺らぎのないところ

無へと還ろう
無へと還ろう
無へと還ろう
無へと還ろう……


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ずっとひとりでいいって思ってた。
ヒトは傷つけるから。ヒトを傷つけるから。
ひとりがいいって思ってた。
心は何も知らなくていいと思ってた。
なのにあなたとあなたの心に逢ってしまった。
涙も痛みも何もかも、
いのちの何もかもをあなたの心にもらった。
だから好きってことをわかった。
だから心があなたに向かった。
だからあなたののばしてくれた手に、手をのばした。
だから、
私の手があなたの心に刃になったことを知った。
心をひらくまで知らなかった。
私は知らずにいて、本当に何も知らなかった。
だからもう終わりにしよう。
あなたのために私ができるいちばんのこと。
こんな悲しい私の何もかもを終わりにして
どこか遠くへ放り投げてしまおう。
今はもう私のした何もかもが、
悲しいことになってしまった。
良いことだったはずのことも
すべて痛みになってしまった。
もう、好きって言わない。もう手をのばさない。
私は終わり。これでもうどこにもいない。

どうせ何もかも私のせいなら
いっそ時間だって私の自由にできたらいいのに!
あなたの心だけが私に世界を信じさせてくれた。
あなただけが私に、ここにいていいと言ってくれた。
あなただけが、私に、いのちと心をくれた。
あなたのくれるものだけでここにいた、
それは、私の罪。
それはもうすでに起こってしまったこと。
忘れられようもない私の醜さと弱さ。
あなたは今もここにあなたの強い足で立って、
私に手をのばすことをやめない。
だから、そんな、
あなたの心が、私を壊す。

だから、みんな壊れてしまえばいいのに。
みんなどこでもないところへ
かえってしまえばいいのに。
だから、私は壊れてしまえばいいのに。
私はどこまでも傷つき果てて
水になってしまえばいいのに。
もう、心をどこへも向けない。
もう、自分の心に、想いが、
大事なものがあるなんて、信じない。
何もかも捨ててしまおう。
知ったこと、もらったもの、このいのちの、何もかも。

時よ戻って。私のいうことを聞いて。
この罪が何もかも私のものなら、
時にだってこの手を届かせて。
それでも私の弱い心は何度でも
同じことを繰り返すだろう。
あなたの想いだけが確かなことだった。
私は何もしなかった。何も。
自分で信じることも、見つけることも、
好きになることさえもしなかった。
あなたのくれたものだけで私はここにいて、
そうしてあなたを傷つけた。
なのにあなたは今もあなたの強い足で立って、
弱くて醜い嫌な私をずっと見ている。
弱くて醜い嫌な私に、手をのばしている。
だから、そんな、
あなたの想いが、私を壊す。

みんな壊れてしまえ。
私は壊れてしまえ。
みんなどこかへ消えてしまえ。
私はどこかへ消えてしまえ。


この訳はもともと、97年にシングルから起こしました。
熱に浮かされたように意訳し、時制も変え、300部だけフライヤーをつくって、友人に配ってもらいました。
その後、アルバムに日本語訳がついていると聞き、人に見せてもらって、誤訳などに気がつきましたが。
「俺の訳の方が面白いからいいや。」
……生まれてきてすいません。



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