「まごころを、君に」でのシンジとアスカについて
前編:公園の砂場とキッチンについて
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1.神と等しくなったシンジの願い
シンジとアスカを解釈するためにはどうしてもキッチンの場を特定する必要があります。
このため検討はキッチンをすこしさかのぼった所から開始になります。
知恵の実と生命の木を手にしシンジが神となった時、一般的にATフィールドの有無の二択を迫られたと考えられるようですが本当にそうでしょうか?
シンジは「補完計画」の内容どころか存在自体知りません。ただユイに「何を願うの?」と問われただけです。
ATフィールドも人類進化もまるで眼中に無く、真っ先にシンジが望んだ場所が「公園の砂場」だと思います。もちろん「公園の砂場」はある場所の象徴・暗喩です。
私はシンジが神となった後、「公園の砂場」と「キッチン」を望み、実際そこを訪れ体験したと考えています。「公園の砂場」と「キッチン」は回想や妄想ではなくリアルタイムでのシンジの実体験です。
「何を願うの?」と問われシンジは至福の表情を浮かべ液体に沈みます、一体なにを
イメージしたのでしょう?
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2.「公園の砂場」の実態
「公園の砂場」の最後の場面(アスカに怒られる直前)で公園の全景が映されます。
奥の二つの小山を胸と見立てると公園は明らかに女体です。では砂場は女体のどの部位と見るべきでしょう?
・幼児がひとりでいる場所
・どんなに寂しくても一歩も外に出ることができない場所。
・「ここにくれば何かある」と思える場所
子宮以外考えられません。
「何を願うの?」と問われ母体回帰を願い、それを実際に果たしたと考えます。
映像表現上「公園の砂場」なわけですが、実際のところシンジは至福の表情を浮かべ羊水に沈んでいたと考えます。(神ですからなんでもできます。)
しかし何かあると思って行った場所には「寂しさ」と「つまらなさ」しかありません。
シンジは次の願いを考えます。ミサトのペンダントを見てミサトに会いたいと思ったようです。
でもこの時点でミサトに会うには???
死んだはずでは???
シンジは強引に会いに行きます。(神ですから会えるんです。)
・「公園の砂場」の場面DVDチャプタータイトル「むすんで、ひらいて」
閉じ込められた後、開放 と解釈します。
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3.「キッチン」の実態とその場の特殊性
・ミサトとカジの絡み 〜 「キスしようか」(アスカ)までの場面についての検討です。
死んだミサトに会いに行くわけですから、キッチンは天国、冥界、死後の世界以外にありません。ひょっとするとお迎え(綾波レイ)がかき集めた「たましい」の保管場所かもしれませんが………。場違いなリツコの声の登場がそれを連想させます。
いずれにせよ、裸のたましい同士がぶつかりあう場所であり、これこそカントクがシンジとアスカのために用意した舞台だと思います。
映像表現上シンジもアスカも肉体を持っていますが、実際には「脆弱な自我境界」に包まれた丸いたましいだと考えます。
キッチンの実態は上記のように考えるわけですが以後のシンジとアスカを解釈する上で重要なのはこの場の特殊性です。
この場面中最重要なのはミサトがこの世界(キッチン)の特殊性を説明する台詞です。
「お互いの溶け合うこころが映し出すシンジ君の知らない私」
・たましい同士がふれあい、溶け合い、記憶・秘密を隠すことができない。
・「ミサトとカジの絡み」はシンジがのぞき見たミサトの秘密。
・この場面DVDチャプタータイトル「脆弱な自我境界」
チャプターの大意は舞台説明。
たましい同士が溶け合い、混ざり合い、秘密を隠すことができない場。
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4.「例題1」(シンジはなぜ列車内で錯乱したか?)
「わかってないわよ バカ」(アスカ)〜列車内錯乱までの場面についての検討です。
「例題1」(シンジはなぜ列車内で錯乱したか?)
「問題1」(シンジはなぜ首を絞めたか?)
二つとも解き方はまったく同じです。例題がわかれば問題もわかります。
「例題1」は「問題1」のためにカントクが用意した練習問題だと思います。
本題に入る前にもう一度この場の特殊性について強調(実証)してみたいと思います。
このチャプターの直前アスカはうれしそうにシンジに近づいてきます。その後、二人の両足
を上から見る不自然なカットが入ります。これは私には「今二人のたましいがふれあい、
心を読み合っています。」とカントクが説明しているように見えます。
事実、一言も言葉を交わしていないにもかかわらずアスカの表情は一変し、心を読みあったとしか思えない不自然な会話が展開されます。
これ以後首絞めまで接近・接触はスロー、リプレイ、アップ、「そばにこないで」等さまざまに強調されます。意味があるから強調されます。ご確認ください。
ようやく本題です。
突然の綾波レイの登場。アスカからシンジを列車内に強奪していきます。この時点からアスカは本格的に壊れはじめていくと考えます。
列車内、全身でシンジとレイの間に割って入るアスカ。
・「病室の一件」暴露 :綾波レイに聞かせたかったうそ。
「いつものように……」多分いつもではないと思います。
・「あんたが全部……」:一般論ではなく綾波レイを意識していると思います。
三角関係の不安がアスカを壊していきます。
この自我境界が脆弱な場でシンジの目の前に不安のかたまり(アスカ)があります。
この場では、たましいは接近すると溶け合います。
水槽の中に境界があり、きれいな水と黒い液体が分けられていたとします、境界に穴があいたら(境界が脆弱だったら)きれいな水はどうなるでしょう?
シンジはアスカからどくどくと流れ込む「不安」に耐え切れず錯乱します。
シンジが言葉にして吐き出す不安はアスカの不安です。
…… レイちゃん。誰に説教してるかわかってるの?
アスカが離れてようやく正気に戻ります。
・この場面DVDチャプタータイトル「不安との蜜月」
列車内でシンジの目の前に胸を突き出したアスカの体勢:シンジにとって蜜月その体勢で綾波レイにおびえるアスカ:不安のかたまり と解釈します。
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5.「問題1」(シンジはなぜ首を絞めたか?)
首絞めまでの場面についての検討です。
今回アスカが流しこんだのは「凶悪性」と「幼児性」のようです。
流しこみ方法も接近ではなく接触(突き飛ばす)ですからより強力です。
結果アスカはアスカを拒絶し、アスカはアスカに首を絞められた。となります。
コーヒーが「黒く染められてしまったシンジ」を暗示しています。
エヴァシリーズを圧倒した時のアスカの顔を思い出してください。必死に戦うヒロインをけなげにかわいく描くことなどスタッフにとって造作も無いはずですが、アスカは明らかに意識して醜く描かれています。
この場面(首絞め)のためにアスカの「凶悪性」を前もって表現しておく必要があったとしか思えません。
・この場面DVDチャプタータイトル「虚妄への依存」
アスカが流し込んだ虚妄にシンジが支配された(依存した)。と解釈します。
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6.キッチンでの総括
シンジ:「ミサトさんは相手にしてくれない、寂しい。でもやさしければ誰でもいい。アスカも寂しそう、救ってあげたい。」
アスカ:「カジさんはあきらめるしかない、寂しい。シンジもスキだけど、強く愛してくれなきゃダメ。ママの時みたいに捨てられるのは絶対イヤ。あいまいなやさしさじゃ安心できない。やさしさなんかいらない」
二人の心は多分こんなもんだと思います。
求め合い、心を読み合ってもなおすれちがい最悪の結果を招いてしまう二人。
通常キッチンの場はシンジの暗黒面発現の場と捉えられるようですが、この場で罪を犯し罰を受けるのはアスカです。
シンジはアスカにやさしさの正体を罵倒されます、確かに全部的を得ているわけですが、根底に弱さを持たないやさしさなど超人しか持てないのですから、言いがかりでしかありません。多分アスカもわかっていたと思います。ただシンジにしがみついて駄々をこねたかったんだと思います。幼児が母親にするように。
アスカはいまだヤマアラシです。少し前にトゲの落ちたシンジにしがみつきます。