エヴァンゲリオンと聖書、カバラ、天使、そして悪魔。

 



ここでは、エヴァンゲリオンのなかの宗教的側面について考察しますが、その前に基
礎知識としていろいろ述べておきます。


1。まず、アダムからはじめましょう。

創世紀1:27
そして、エロヒム(Elohim,神の名称の一つです)は彼の姿をもとにアダムを造った。
男と女、彼らを彼は造った。

創世紀2:18、22
そして、ヤハヴェ(Yahweh,神の名称の一つ)はこういった。「アダムが一人でいる
のはよくない。わたしは、彼に適切な手助けをするものを造ろう。」
そして、ヤハヴェは男アダムの肋骨を取りだし、女(イブ)を形作った。そしてヤハ
ヴェは彼女を彼アダムに与えた。

つまり、旧約では二つの人類創成のストーリーがあるわけです。これらは別々の神話
からきているのですが、この二つをカバラではこう解釈します。

まず、(彼)と訳していますがElohimの言葉自体が女性名詞の男性複数型であり、神
自身が男性でも女性でもないことより、第1章のアダムは両性具有(男と女がくっつ
いた形)の存在と解釈されます。
つまり、このアダムは完全なる人間の原型であり、宇宙的存在アダム カドモン(Ad
am Kadmon)とされます。 そして第2章ではそこから女性の部分を取り出したことに
より、アダム カドモンはその完全性を失い、ルーリアカバラによるところのThe Fa
llを生じ、この世界と人類がうまれたとします。

これは正統なカバラの考え方ですが、ゾーハルの書(13世紀スペイン、Mose de Le
on による)にはこう書かれています。

「古代の書にこの女は悪となる前のリリスにあたる、としているのを私は見つけた。」

 



2。ここで16世紀の、ゾーハル以後の代表的なカバリスト、イサク ルーリアが作
りあげた壮大ともいえる宇宙観について簡単に説明してみます。

基本となる概念は、
1、ツィムツーム(Zhimtzum, 収縮)
2、セフィーロート
3、Vessels(器と訳しておきます)の破壊
4、補修(Tikkun)
5、4つ(5つ)の世界の創出
6、「原罪」

1、神がなにもない状態から宇宙を作り上げるために(神でない空間を作り出すため
に)自身を収縮させました。そのなにもない空間にエーン ソーフと呼ぶ無限定の光
が、まず、アダム カドモンを生み出しました。

2、アダム カドモンの身体は初め神を原型として、同心円上のセフィーロート(外
側がケテル、中心がマルクート)からなります。後、アダム カドモンは人間の原型
としての形をとります。

3、エーン ソーフからアダム カドモン を通してこの10個のセフィーロート
(器)を通して光(エネルギー)が流れ込みますが、その光があまりにも強いため、
最初の3個と最後のマルクートを残して器が壊れてしまい、光が散乱すると共にKlip
pot(「殻」と訳しておきますが、悪が生じるもとのことです)が生じました。(The
Fall)

4、この破壊 を修復すべく(Tikkun)、神は10個の器(セフィーラ)を5つの「相」
(Partzufim)にまとめました。

5、その後に4つの世界が、それぞれの上級の世界をもとにそれぞれがセフィーロー
トの木をもち、そのDivine Name 45 (テフィエレト)と52(マルクート)の性的結
合によって、下層世界がうまれていきます。 が、光の浸透が次第に弱くなるために
下層になるほど、「殻」(悪)が多くなっていきます。ひとつめは原型としての世界
(Atziloth) , ふたつめは大天使の世界(Beriah)、三つめは天使の世界(Yatzirah)、
最後が物質世界(Assiah)となりました。ルーリアカバラでは、最上層にアダム カ
ドモンがいるとされ、5つの世界となります。

6、ここで最初のアダムの話につながります。最初の人間アダムは完全なる人間とし
て(神を原型として生まれた)アダム カドモンをもとに作られたのですが、神は彼
がこの壊れた器の修復(「殻」をなくすことです)することを期待しました。しかし、
不完全となったアダムは「原罪」を犯したために失敗し(The Fall)、それが、この
すでに壊れている器がさらに壊れ、物質世界は悪であふれる自体を引き起こしたとい
います。

ルーリアカバラでは「原罪」の意味は、おそらくはグノーシスの影響でしょうが、単
純に「智恵の木の実を食べた」と解釈されません。アダムは目に見える神( Elohim
でもヤハヴェでもいいのですが、要するに神の「臨在」マルクート、Adonai)を神の
すべてであると思い込み、その上位の存在、壊れた「器」に気がつかなったのです。
それが「原罪」です。 その理由で、第十セフィーラ、マルクートの示す性質の一つ
が「智恵の木」とされます。

したがって人間の贖罪はアダムがなしえなかったこと、壊れた器の修復(「神の相貌
の修復」)を目指すことにあるわけです。人間の魂はもともとは、アダム カドモン
から生まれたものですが、「殻」により悪の部分が含まれています。 これを浄化し
てより霊的存在をもつ魂にかえるように努力することを実践とします。

贖罪の最後の段階では、すべての人間の霊が肉体を超越し、光と変わり一つとなり、
その生まれてきたところである、アダム カドモンにもどるとされます。また、この
段階ではアダム カドモンが救世主としてあらわれるともいいます。

ルーリアカバラでのセフィーロートの木は、それ以前のゾーハルと一つ違った点があ
ります。それは、第二と第三セフィーラの間、第六の上に、智恵(Daath)というセ
フィーラではありませんが、影ともいうベき存在を置いていることです。

世界を生み出した器の破壊はどうして生じたのでしょうか。 エーン ソーフから生
じた光には肯定的な「慈悲」あるいは「愛」の要素と否定的な「審判」(Din)の要素
があるわけですが、このDinの要素が強すぎたためと理解されています。そして、こ
のDinが「殻」の中に閉じ込められている状態が悪を生むとされるわけです。
セフィーロートの木では、Dinは第五セフィーラ「ゲヴーラ」(厳正)でもあり、こ
のセフィーラの表すシンボルの一つは「蛇」(Serpent)ですが、これはつぎの話と関
わります。

 


3。リリス(Lilith)とサマエル(Samael)

リリスは聖書ではイザイア:15に名前だけ(Screech owlとして、lilithで探して
もありませんので念のため)現れます。その大本はどうもスメールの伝説から来てい
るようですが、淫魔(Succubus)としての性格などは他の悪魔の伝承と混同されて、
カバラ、タルムードそしてキリスト教に伝えられたようです。 
スメール語では、LilはAirを、Lili(複数型Lilitu)はspirit(s)(霊=レイ)を意味
します。

伝承はかなり混乱していますが、よく知られている伝承はThe Alphabet of Ben Sira
(8ー10世紀)が初出のようです。大筋を挙げれば、

1、アダムの最初の妻である。
2、アダムから逃げだし、悪魔と悪魔の子を生む(Lilim)。
2’、アダムから逃げ出したのち、楽園追放でイブと別れたアダムと悪魔の子を生む。
(のちにアダムはイブと元のさやに収まります。)

その生まれも、アダムとともに土(あるいは汚物)から生まれたといいますが、前に
述べたように、アダムはもともと両性具有だったとすると当然この女性の部分がリリ
スだったという解釈もあるわけです。

エデンの園から逃げ出せた理由は、リリスが神を誘惑し本当の名を聞き出した(神の
本当の名は伏せられていて、それを知ったものは相当の力をもつといわれます)ため
といわれます。 そして、神の使いの天使に、アダムのところに戻らないかわりに、
自分の子供(Lilim)を一日百人殺すことを約束しますが、これは、神の罰とも解釈さ
れています。

3、楽園でイブを禁断の実(智恵の実)に誘惑したのはリリスである。
キリスト教での解釈のひとつですが、通常はここはサタン(ルシファー)としています。

ここで少し、天使そして悪魔について述べておきます。
ルーリアカバラで示したように、4つの世界のなかで大天使、天使の世界と悪魔の物
質世界が生まれてきましたが、それぞれの世界の原型としてのセフィーロートの木に
天使、悪魔があてはめられます。のちの天使学(かなり混乱しているようですが)と
違い、この時期のカバラでは、大天使と天使にしか分けません。

リリスと関係するのは、大天使世界(Beriah)のセフィーロートの木の「ゲヴーラー」
(「厳正」)に位置する大天使サマエル(Samaelあるいはカマエル、Camael)です。
最初の天使であり、戦いの天使(神)、火星にあたり、ゲヴーラーの性質そのままに、
破壊、審判、復讐と死をもたらすとされます。最初に堕落(fall)し、神に反抗し、
イブを誘惑した蛇となる天使です。十二枚の羽をもつとされます。このことからゲヴー
ラの示す性質のひとつは蛇(The Serpent)とされます。 そして一つ下の天使世界(Y
atzirah)では、この位置に6枚の羽をもつセラフィム(Seraphim)が対応しますが、
Seraphimとは「炎の蛇」(Fiery serpents)の意味です。

カマエル(Camael) とは「神をみるもの」の意味、そしてサマエル(Samael)とは、
「盲」(Sami)という意味があります。

ちなみに、天使ケルビム(生命の木の保護天使)は4枚の羽、大天使サタン(あるい
はメタトロン)は36枚の羽をもつとされます。

カバラ(ユダヤ教)では、神に反抗した天使、イブを誘惑した蛇、リリスの夫となっ
た悪魔は一貫してこのサマエルなのですが、どうも伝承がキリスト教に入った時に、
このサマエルのゲヴーラーとしての炎、光の性質が他の天使ウリエル(Uriel)と間違
われ、さらにこのウリエルがルシファーとされ、それがサタン(あるいはメタトロン
Metatron)というこれも別の天使の名と混同されたようです。
ですから、キリスト教の伝承に従ってルシファー(サタン)としてもいいのですが、
原典を尊重するという意味でサマエルとします。

すでにのべましたが、アダムと別れたのちのリリスの夫とされますし、また誘惑した
蛇は身体はリリスだが声はサマエルであったとか、さらに、最初の殺人者カインはこ
の蛇としてのサマエルとイブの息子であるとされます。

物質世界ではセフィーロートの木は悪魔を示しますが、リリスは(これも諸説ありま
すが)マルクートとされます。( 前の論文で、レイがマルクートとして性格づけら
れていることを論じましたが、このことは仮説をさらに補強します。)

これがユダヤの第二神殿の破壊(72 A.D.)以降シェキーナとアドナイの「聖なる結婚」
が行われなくなったことと関連づけられて考えられ、そして、

4、リリスは神の配偶者である。

という伝承につながります。(長くなるので述べません。)

リリスがアダムの最初の妻という伝承の他に、リリスとサマエルは、アダムとイブが
両性具有の存在として生まれて来たように、もともとはくっついた形で生まれたとい
う伝承もあります。ここから次のような解釈も生まれて来たと思います。

5、「善と悪(を区別するところ)の智恵の樹(The Tree of Knowledge)は、サマエ
ルとリリスを顕わしたものである。」

 


4。グノーシス(Gnosis)とサマエル。

ルーリア カバラの成立には、グノーシスの影響が少なからずあったようです。神が
世界を作ったのではなく、神が世界そのものであり(悪も含めて)顕現していくとい
う考え方、その際に性的結合により世界が生まれること、またアダム カドモンの存
在も、アントロープス(The Anthrops)と対応します。

ここではグノーシスについて詳しく述べるのが目的ではないのですが、グノーシスの
考えでは、知識、智恵と自由は人間を人間たらしめているものであり、それを禁ずる
ものは悪であるとします。 そして、天使はその反抗(「堕落」)の前は奴隷であり、
アダムとイブも善悪を知らずに過ごすエデンの園の奴隷とします。

「失楽園」(ミルトンのParadise Lost)のなかに現れるルシファー(サマエル)は、
このグノーシス的な考えに沿ったキャラクターであり、読んだ方にはわかると思いま
すが、彼は実に人間的でその意味でチャーミングな存在です。

ルシファーには二つの顔があります。一つは悪魔としての面、もうひとつは(絶対者
の)恣意的なルールに従わないために刑罰に苦しむ、勇気ある反抗者としての面。後
の方の性格付けは、キリスト教ではなく、ギリシャ神話、ティターン族のひとり、プ
ロメテウス(人間に火を与えたためにゼウスに罰せられる)の話に大きく依っている
ようです。

サマエルには、こういう面もあるということを付け加えておきます。


5。智恵の木(The tree of knowledge)、生命の木(The tree of life) とその解釈
(筆者のです)。

創世紀1:29 そして神はいった、「見よ、わたしはおまえたちに、すべての穀物、
それは地上をおおうであろうし、すべての木、そこには種をもつ実がなるだろう、を
与えた。」

創世紀2:9 神は、姿見のよい、しかも食べて味のよい、すべての木を地からはや
した。そして(エデンの)園の中央には生命の木(The tree of life)と善と悪(を
区別するところ)の智恵の木(The tree of knowledge)も。

創世紀2:16ー17 神はその男(Adam)にこう命令した。「おまえはこの園にあ
るすべての木(の実)を自由に食べてよい。しかし、善と悪の智恵の木、その木(の
実)は食べてはいけない。それを食べる日には、おまえは死ぬ(運命になる)だろう。」

創世紀3:4ー5 そして蛇は女にいった、「おまえは死なないよ。神は、それをた
べる日にはおまえの目が開き、神とおなじように善と悪を知るものになるのを知って
いるから(そう言ったの)だよ。」

創世紀3:20(智恵の木の実を食べたのち) アダムは彼の妻の名をイブ、これは
彼女はすべての生き物の母であるから、と呼んだ。(この前までイブの名はでてきま
せん。)

創世紀3:22 そして神は言った「みよ。男(アダム)は我々の一人のようになっ
た、善と悪を知るものに。このうえは、かれが手を延ばし、生命の木(の実)を取り、
食べ、そして永遠に生きることがないようにしなければならない。」

創世紀4:1 そして、アダムはイブが彼の妻であることを知り、イブは妊娠し、カ
インを産んだ。アダムは「私は、わが主よりおとこ(の子)を得た」といった。


創世紀からの抜粋ですが、注意すべき要点をあげますと、
1、創世紀1章では、すべての木の実を食べてよかった。よくなくなったのは2章か
らである。
2、2章以降でも、食べていけないのは智恵の木の実だけであった。
3、善と悪を知るのは神の特性であった。
4、神は自身を「われわれ」といっている。
5、智恵の実を食べたのち、初めてアダムは妻の名を呼び、出産と死がおとずれた。
6、神が恐れたのは、智恵の木の実を食べたのち、生命の実を食べることであった。
楽園追放、ケルビムと炎の剣の配置はそのためであった。
7、蛇は嘘は言っていなかった。死が訪れたのは生命の木の実をたべられなくなった
ためである。

まず、創世紀第1章ですが、これはリリスを考慮すればリリスとアダムの時代であっ
たことと推測されます。(もちろんこれは正統な聖書の解釈ではありませんが、リリ
スの話が現れるとされるのは第1章です。)この時代には、神は自由に実をたべてよ
いし、産まし増やせといっています。

次に第2章以降のアダムとイブのときにも、智恵の木の実を食べる前は、かれらは自
由に生命の木の実を食べていたことになります。(これは正統な解釈かどうかは知り
ません。) このことは、智恵の実を食べた時にそれまで食べた生命の実の効果が失
われ、もう一度食べなければならないようです。 また、この時代には神はなぜか智
恵の木の実を食べてはいけないとし、そのかわり子供も産まれず、死もなく、しかも
名前さえない状態にあります。

ここにリリスのさまざまな伝承をいれれば、創世紀のアダムはこう解釈されます。

はじめ、神はアダムとリリスに自由にどれでも食べてよいし、産まれ増やせといった。
が、リリスはアダムときわめて仲がわるく、セックスもさせなかった(アダムがmiss
onory positionをとろうとしたところ、憤然と抗議します)。
そしてアダムに知らせず、リリスは智恵の木の実を食べ、神から本当の名を聞き出し
エデンから逃げ出した。そのうえ、生命の実も食べていたので、悪魔(サマエル)と
一緒に悪魔の子、lilimを限りなく生み出す存在になってしまった。リリスは戻らな
いかわりに、Lilimを一日百人殺すことを約束する。

神はこれに懲りたので、イブの時代には、(まだ食べていない)アダムに智恵の木を
たべてはいけないといった。 神に反逆する(あるいは、神の奴隷となっている人間
を自由にする)ために、サマエルとリリスは蛇に化け、イブを誘惑し智恵の実を食べ
させることに成功した。神は、他に選択の余地がなく、楽園追放、ケルビム、炎の剣
を配置して、かれらが再び生命の木の実を食べないようにした。

追放後、アダムの最初の子(じつは、サマエルの子。 蛇がイブを誘惑するまで彼女
は処女であったという伝承もあります)カインを得、神の子と呼ぶが、最初の殺人者
となってしまう。(弟アベルを殺します。のちにカインの子孫からリリスの「妹」と
いうべきNaamahが現れます )。そのため、イブと別れたアダムは、再びリリスと一
緒になるが、最終的に別れ、再びイブと一緒になり、子供たちを生み、そして930
年の命を終えます。

 

 



エヴァンゲリオン世界。


まず、エヴァは聖書、カバラのモチーフを借りていますが、本質的にかなり異なった
解釈をしていることに気がつきます。できるだけ、伝承をもとにこれらの「謎」とな
る設定に挑戦してましょう。

1、アダムは死ぬ運命となる智恵の実を食べたものではなかったが、生命の木の実は
食べている。
智恵の実をたべなかったのは、エヴァでの創作です。 聖書でもアダムは生命の木の
実はたべていると解釈できますので、それで永遠に生きる存在となっていること理解
されます。

2、リリスは、智恵の実を食べたところの人類を生んだものとしている。 
リリス、そしてエヴァでは隠れた存在であるサマエルが、智恵の実を食べたものとす
るのも正統な解釈ではありません。しかし、上にあげた創世紀の解釈、リリス、サマ
エルの伝承から、そう考えてもすこしもおかしくありません。リリスが人類の祖先で
あるとするのはエヴァでの創作です。

3、リリスは死んでいないが、人間が死ぬ運命にあるのはなぜか。 
これは子孫である人間自体は生命の木の実を食べていないこと、そしてリリスがLili
mを一日百人殺すことを契約としたからでしょう。(日本神話のイザナギ、イザナミ
のようですね。)

4、人間の「原罪」とはなにか。 
「新世紀の福音」(ご存じかと思いますが、Evangelionはギリシャ語で「福音」です)
というタイトルの意味は、人間の贖罪が完成するということを示していまし、そのた
めの人類補完計画です。贖罪の前には「罪」があるとしなければなりません。
エヴァの世界でも通常の聖書が知られていると仮定しますと、アダムが智恵の実を食
べていないとしているからには、(ゲンドウと冬月の)楽園追放の話はなにかの例え
であると考えられます。

一つは楽園から逃げ出したリリス。追放ではありませんが、彼女とその子孫はそれ以
降神が与えたものすべてを失って生きていかなければならなかったこと。もう一つは、
サマエルの子孫として、霊的に救われない存在であったことが考えられます。つまり、
カインの末裔として本来(神の力では)救われない存在であることが、裏死海文書
(ゼーレが握っていたことよりそう考えますが)に書かれていたのでしょう。そのた
めに、科学、人の力をもってして「正統な」アダムのもと(神が意図した人間)に戻
ろうとしたと考えます。

5、贖罪はどう完成した(しようとした)か。
アダム(カヲル)とリリス(レイ)の融合によって生じたもので、人々の魂は光とな
りリリスの卵(黒き月)にもどりました、これはゼーレにとって碇の裏切りによるセ
カンドチョイスです。リリスとアダムの融合はアダム カドモンを生じます。人々の
魂はそこにもどろうとしますが、これはルーリア カバラの贖罪の完成です。

6、エヴァ初号機がサマエルを意味する十二枚の羽となり、リリス(アダム カドモ
ン)を破壊したことの意味はなにか。
サマエルとは、物質世界を生み出したDinを象徴するものであり、同時に人間の人間
たる智恵を象徴しています。シンジがもとの世界にかえりたいと願ったためにその形
を取ったと考えられます。が、これは贖罪を拒否し、(他人の恐怖という)悪のなか
に生きようとするものです。はっきりと言えば、もう一度「原罪」を犯そうというも
のです。救いはあるかというと、ユイの言葉「生きていればどこにでも幸せになるチャ
ンスはある」あるいは冬月の「おれは汚れていても人として生きることを望むよ」に
あります。

7、最後までアスカがシンジを拒み続けたことの意味。
前の論文でも述べましたが、アスカはセフィーロートの木の「ゲヴーラ」によってそ
の性格づけがなされてます(伝統的に「ゲヴーラ」は女性とされています)。彼女は、
傲慢、高飛車、恨み深いという否定的な性格とともに「学校の成績がなによ。旧態依
然とした限定式のテストなんかなんの興味ないわ。」という権威に反抗する性格も持っ
ています。これらは「ゲヴーラ」のDinとしての性格から派生するものです。
それで魂の合一という段階でも、あくまで拒否するという結果になったわけですが、
「ゲヴーラ」は世界を生み出す、人間であることを取り戻すという役割もあります。
シンジがもとの世界にもどりたいと考えた理由、エヴァ初号機がサマエルに変わった
理由、(ついでにいうと、視聴者の夢を壊し現実にもどすこと)、それらは「ゲヴー
ラ」としての彼女の存在があったためです。
(少し勘繰ると、庵野監督にとって「5人の女性」が「ゲヴーラ」だったのかもしれ
ません。)

もう一つ、つけ加えると、アスカの乗るエヴァ弐号機がエヴァシリーズによってやら
れる情景は、「ゲヴーラ」であるサマエルの性格のモデルである、プロメテウスの刑
罰を彷彿とさせます。

8、テレビ版と映画版は同じ結末か。
「原罪」と同義の「堕落」を意味するThe Fallは、いろいろな意味で使われています。
1、聖書でアダムとイブが智恵の実をたべたこと。2、ルーリア カバラでDinの力
により「器」が割れ、「殻」の多いこの世界ができ上がったこと。3、サマエルの神
への反逆。
そして、これはまだ詳しく述べていませんが、セフィーロートの木を精神世界から物
質世界への認識過程とする考えがあり、その考えでは、自我意識の完成(意識と物質
世界を結ぶセフィーロートの木の完成)をThe Fallと呼びます(つまり、これが智恵
なのです)。
テレビ版では、精神世界のThe Fallを表わし、映画版では、もっと具体的にサマエル
の姿をとったエヴァ初号機がリリスを壊す姿がThe Fallとして表わされます。

9、第壱使徒アダムはどういう存在か。
アダムとリリスが、セフィーロートの木(カバラにおける生命の木)をその体内にも
つアダム カドモンから2つに分かれてうまれたというのなら、どう2つに分かれた
のでしょうか。ルーリア カバラのセフィーロートの木は、10個のセフィーロート
と影ともいうべき智恵(daath)からなっています。リリスが智恵(daath)を示すなら
ば、南極の第壱使徒アダムは(アダム カドモンの大部分である)生命の木そのもの、
セフィーロートの木を示している(「光の巨人」という表現は、アダム カドモンを
よく表します)と考えられます。

10、第弐使徒はなにか。
これを解くには、第参話のミサトの台詞「碇指令のいぬまに第四の使徒襲来か。」に
続く台詞のやりとりが重要です。(リリスの存在、その他の秘密、使徒が何体いるの
かなど知らなかった)彼女にとっても、それからネルフのスタッフにとっても、第壱
話の使徒は第参の使徒と認識されていることに注意しなければなりません。つまり、
ネルフのスタッフにとっては、第弐使徒は秘密でもなんでもないわけです。それ以前
に彼女自身(おそらく他のスタッフも)が見たものは、南極で4枚の羽を広げている
ものと、光の巨人(リリスを初めて見たときにビデオの光の巨人のイメージがあらわ
れます)の二つです。光の巨人が第壱使徒アダムならば、4枚の羽をひろげている存
在は第弐使徒です。ゼーレ、そしてネルフの記録にないのは、セカンドインパクトの
時にはゼーレの人間がだれもいなかったため、あるいはその時爆発により失われたた
めでしょう。

4枚の羽の存在はケルビムを連想させます。ケルビムが配されている理由はなんでしょ
うか。智恵の実を食べたものが、再び生命の木の実を食べることを恐れたためにいる
わけです。アダムが生命の木そのものであることから、その近辺にケルビムが配され
ていたが、目を覚ましていなかったと考えられます。他の使徒は、人間が生命の木の
実の秘密を得るのを阻止しようとネルフに襲ってきます。

11、「アダムに生まれしものはアダムに還らなければならないのか。」
「使徒が地下に眠るアダムと接触するとサードインパクトが起きるといわれている」
これらは、アダムの子孫はアダム カドモンにもどるというルーリア カバラの救済
の伝説にもとづいていますが、それらはすべて疑慢であったと考えられます。アダム
は智恵の実をたべていませんので、そもそも贖罪の意味がないのです。「使徒は智恵
を身につけ始めています。」これはアダムが智恵の実をたべていないという逆証にも
なります。



 

 


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