エヴァンゲリオンとセフィーロートの木(続編)


前作では、ユダヤ神秘主義カバラの代表的な象徴であるセフィーロートの木が、どう
エヴァンゲリオンのストーリーのなかで使われているか概括的に考察してみました。
ここでは前作で省略した、個々のセフィーラーがどう主要登場人物の性格付け(役割)
と関係しているかに述べてみます。

つまり、大胆ですが、こういう仮説を置きます。エヴァンゲリオンの主要人物の役割
は話の展開に関わらず、始めからセフィーロートの木のから性格づけられていたとい
うこと。 これをここで検証してみることにしますが、筆者はこの仮説にかなりの自
信をもっています。

まず、なぜこう考えるかに至ったかについて述べます。

カバラでは、セフィーロートの木の中の個々のセフィーラー(すべてにではありませ
んが)に、それぞれの意味する所を最もよく表す人物を聖書から取りだし対応させて
います。「厳正」にはイサク、「慈悲」にはアブラハムなどなど。従って、それに倣っ
て主要人物を性格づけたと考えても、そう突飛ではありません。
そう考えてセフィーロートの木の意味するところを見てみると、実によくゲンドウ、
ユイ、シンジ、レイ、そしてアスカの性格付けが分かります。。

もうひとつの理由を挙げます。
エヴァンゲリオンとはなんなのかを一言でいうならば、これは碇ゲンドウとユイの希
望である、人類補完計画、あるいは人類が永遠に生きることを実現させようとした話
であると言えます。それにもかかわらず、この二人の性格付けが非常に曖昧であるこ
とに気付かされます。しかし逆に考えれば、始めからその役割設定がなにかを参照し
たためとも考えることもできます。 

前置きはさておいて、はじめましょう。

ゲンドウは、第二のセフィーラー「叡知」です。「叡知」に表される性質は、
始まり。
意思。
父。

これは、ゲンドウのエヴァンゲリオンの中での役割そのものです。

ユイは、第三のセフィーラー「分別知」。十個のセフィーラの中で「王国」と並んで
女性の性質をもち、第二のセフィーラと「結婚」をし、第六セフィーラを息子して生
みます。ユイはゲンドウと結婚してシンジを生みます。その性質は、
母。
子宮。
回帰。
オープニングにあらわれる、シンジしばしば見たところの青い胎内のイメージを思い
だしてください。また、最後に、ユイがたなびくその姿をエヴァ初号機に表わしたよ
うに地球を去っていく、宇宙的な「母」のイメージです。

シンジは第六セフィーラー「美」です。このセフィーラーは第二、第三セフィーラー
の「結婚」から生まれる「息子」であり、第三セフィーラーはエネルギーをこのセ
フィーラーに与えそして守り育てます。シンジはゲンドウとユイの合いだに生まれた
息子であり、初号機にのこったユイに常に守られます。また第六セフィーラーはセ
フィーロートの木の中心であり、「心臓」に例えられます。それと同じくシンジはエ
ヴァンゲリオンの話の中心であり、シンジの乗ったエヴァ初号機がエヴァシリーズと
ともセフィーロートの木を作りサードインパクトを起こした時、エヴァ初号機は「美」
の位置にいます。

その性質は、
慈悲。真実。
謙虚。調和。(シンジの性格です。)
花婿.(第十セフィーラー「王国」との性的合一)。
青いそら。日中。(シンジの心象風景として、しばしば現われます。)
生命の樹。(シンジの乗ったエヴァ初号機が変わったものです。)

さらにこのセフィーラーの色がカバラでは指定され、それは
紫と緑。
これは、シンジの乗る初号機のカラーです。


レイは第十のセフィーラー「王国」。
「王国」はセフィーロートの中でもっとも複雑な性質をもっています。それを反映す
るレイが複雑な役割をエヴァンゲリオンのなかで負っているのも当然といえます。

まず、このセフィーラーは女性の性質で、第二、第三のセフィーラーから生まれる
「娘」で第六のセフィーラーとは兄妹です。さらに、妻、母とも表されます。 レイ
がゲンドウにとっては(ユイのクローンとして)妻でもあり、また、

きめてくれた?
男だったらシンジ。女だったらレイと名付ける。

から娘でもあるわけです。
そして、このセフィーラーは神の「臨在」を表します。これはレイが補完の中で現わ
れることに対応します。また、セフィーラー相互間のエネルギー流通の原理に従って、
第六と第十の兄と妹は性的結合関係に入りますが、これはLCLのなかでシンジ(第六)
と結合しているレイです。

このセフィーラーの示す性質は、
月。(エンディングに現われるレイと月、そしてFly me to the moonの曲。)
妻。娘。
母。(シンジにとっては母ともいえます。)
鏡。(鏡に映るレイの姿がしばしば現われます。)
男性(第六セフィーラー)に対する求愛。(「碇くんといっしょになりたい、私のこ
ころ。」)
智恵の木。(第六との融合とで人類の魂が生まれるといわれます。)
水。土。

このセフィーラーが示すカラーは、
青と黒。
レイの乗るゼロ号機の(改装後の)カラーリングです。


最後にアスカを同定します。
アスカは、第五セフィーラー「厳正」あるいは「審判」。このセフィーラーは神の持
つ力、非情な「審判」をあらわします。カバラでは聖書のなかで神を恐れるイサクを
もって代表とします。つまり、このセフィーラを示す所を表す人物は、この神の「審
判」を恐れる、あるいは下されるところの人物であるわけです。また、同時にこれは
神の力を示すところでもあるわけです。

アスカは、常に上にたつもの、力を誇示するものとして登場しますが、後半、ハレル
ヤコーラスに示されるところの神の審判を暗示する、シトの心理攻撃を受け精神に異
常をきたします。

このセフィーラーの性質は、
(神に対する)恐怖。
火。
暗闇。

イサクの奉献伝承、神の命じるところによって一人息子のイサクを殺そうとするアブ
ラハムの話、はモチーフとしてよく絵画に使われていますが、これは、創世紀第二十
二章(Genesis 22) に現れます。
海外ではエヴァンゲリオンのビデオテープが、vol. 1,2という代わりに、Genesis 1,
2という名前で売られています。そして、アスカがシトの心理攻撃をうける話は第弐
拾弐話、つまり(「話」をvolumeと拡大解釈すれば)Genesis 22です。

このセフィーラーが示すカラーは、予測されるように、赤(エヴァ二号機の色。アス
カの髪の毛の色。)です。


あといくつかセフィーラーが残っていますが、同定できるのはここまでです。
いかがでしょうか。ゲンドウ、ユイ、シンジそしてレイの役割とその関係が見事にあ
らわされているとおもいませんか。 

ストーリーの流れから解釈困難であったこと(ゲンドウの性格、ユイの存在、レイの
もつさまざまな面)も、はじめからこういう設定であったとすれば、よくわかります。
 ある意味では批判的にいわれているre-mixとも言えますが、決して評価を落とすも
のではありません。 もっとも感心するのは、「王国」であるレイの存在をあれほど
具体的にストーリーのなかに組み込んだ脚本の腕前です。逆にいうと、ストーリーの
なかでこじつけるのに苦労して、それでも「謎」として残ったのも仕方がないとも考
えます。

最後に少し付け加えますが、「初号機はアダムである。なぜならばオープニングに現
れるアダムの文字に対応して初号機が現れるからだ。」という議論をどこかでみかけ
ましたが、この推測は(話の展開を別にすれば)あながち間違いではないと考えてい
ます。なぜならば、第六セフィーラー(シンジあるいは初号機)の示す人物は、聖書
ではアダムなのですから。つまり、Lilithを話の展開上(あるいは好みとして)持ち
込む以前には、そう設定していたとしてもおかしくはないわけです。

 

 


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