人類補完委員会とゼーレ

 

1.人類補完委員会とゼーレが基本的に別組織であること

同一視されやすい人類補完委員会とゼーレですが、この両組織は別組織であり、役割も異なります。

 

人類補完委員会とは、国連直属の諮問機関です。資料によれば、メンバーは米、英、露、仏の代表に議長のキール(独)を加えた5名で構成されております。

 

ゼーレというのは、国連を影で操る謎の組織です。

 

この二つが全く違う組織であり、NERVにとっても両者は別物であったことは、以下のセリフからも明白です。

 

14話

冬月「予定外の使徒侵入。この事実を知った、人類補完委員会による突き上げか。まあ、ただ文句をいうことだけが仕事の、うるさいやつらだからな。くだらん連中だ」

碇「切り札足るものは、全てこちらが擁している。彼らは何もできんよ」

冬月「だからといって、焦らすこともあるまい。今、ゼーレが乗り出すと面倒だぞ。色々とな」

 

つまり、冬月やゲンドウにとって、

人類補完委員会=文句をいうことだけが仕事のうるさいやつらであり、くだらん連中。

ゼーレ=乗り出すと面倒な連中。

というように差別化されていることがわかります。

 

17話

冬月「しかし、委員会は血相を変えていたぞ」

碇「予定外の事故だからな」

冬月「ゼーレもあわてて行動表を修正してるだろう」

 

ここでも委員会とゼーレが別組織であることがわかります。

とくに、ゼーレについては「行動表」の存在が確認されます。

 

 

21話

冬月「委員会ではなく、ゼーレのお出ましとは」

 

ここに至って、とうとうネルフが怖れていた事態、「ゼーレが乗り出す(14話冬月)」という事態が発生します。これ以降、委員会は姿をけし、あらわれるのはゼーレのみ(モノリスのみ)となります。

 

 

以上の言葉からわかるように、委員会とゼーレは別組織であり、ネルフにとって、委員会は文句を言うことが仕事の詰まらぬ連中ですが、ゼーレは独自の行動表に基づいたやっかいな組織であります。

 

結論1

ゼーレと委員会は別組織である。委員会は国連直属の諮問機関である。

 

この、委員会とゼーレとの差異は具体的にはどのようなものでしょうか。

 

 

2.人類補完委員会とは

[委員会とゼーレ]

結論1で見たように、委員会とゼーレは別組織です。

しかしながら、

第15話

委員「我らゼーレのシナリオにはない出来事だよ」

という発言があります。

つまり、委員会のメンバーは自分たちのことをゼーレという組織に属していると言っております。シナリオについても知っているようです。

このことは、委員会とゼーレは別組織であるものの、委員会のメンバーは同時にゼーレという組織にも参入していることがわかります。

 

 

結論2

委員会のメンバーはゼーレにも加入しており、シナリオについても知っている。

 

 

なお、委員会が自分達をゼーレと呼んでいることは、必ずしも委員会のメンバーがゼーレのモノリスであるということを意味しているわけではありません。ゼーレは大きな力を握った組織であり、当然構成員も多岐にわたるでしょう。南極に行ったメンバーやユイもゼーレと呼ばれています。つまり、ゼーレという組織に属する人間は膨大に存在するのです。モノリスはその中のわずか12人の最高幹部達(ゼーレの老人達=長老)です。

委員会のメンバーは、大きな意味ではゼーレのメンバーでしょうが、モノリスのシーンで容姿が明示されているのがキール一人であることから考えて、いわゆるゼーレの12人の中に入っているメンバーはキール一人と考えられます。

 

 

 

[委員会の位置付け]

第2話

「使徒再来か」

「あまりに唐突だな」

「15年前と同じだよ。災いは何の前触れもなくおとずれるものだ」

「幸いとも言える。我々の先行投資が無駄にならなかった点においてはな」

 

これは、

26話冬月「15年後に必ずサードインパクトが起こる」

という発言と比べますと、大きく異なるものです。

  • つまり、彼らは、使徒の襲来を心からは信じていなかった、別の言い方をするとゼーレのシナリオを冬月ほどには知らなかったことがわかります。
  • 結論3

    委員会は、ゼーレのシナリオを十分には知らなかった(例えば、冬月ほどにも知らない)。 

     

    第7話

    男「使徒はもう現れない、というのが彼らの論拠でしたからね。」

     

    つまり、委員会は公的には「使徒はもうあらわれない」というスタンスを採っていたことです。

     

     

    以上二つの発言から、委員会のメンバーは、内部的にはゼーレのシナリオを不十分にしか知らず、公的には使徒はもう現れないと言っていたことがわかります。

     

     

     

    以上の結論を並べますと、

     

    結論1

    ゼーレと委員会は別組織である。委員会は国連直属の諮問機関である。

    結論2

    委員会のメンバーはゼーレにも加入しており、シナリオについても知っている。

    結論3

    委員会は、ゼーレのシナリオを十分には知らなかった(例えば、冬月ほどにも知らない)。 

     

     

     

    これらから

    大結論1

    委員会は国連に所属する。しかしながら個々のメンバーはゼーレにも加入しており、実態はゼーレのために働いている。メンバーはゼーレのシナリオについてある程度知っており、遂行しようとしているが、詳しくは知らない(もちろん、キールは除く)。

     

    ということがわかります。

     

     

     

    [仕事の内容]

    第2話

    「使徒再来か」

    「あまりに唐突だな」

    「15年前と同じだよ。災いは何の前触れもなく訪れるものだ」

    「幸いともいえる。我々の先行投資が無駄にならなかった点においてはな」

     

    「しかし碇くん、ネルフとエヴァ、もう少しうまく使えんのかね」

    「零号機に引き続き、君らが初陣で壊した初号機の修理代。国がひとつ傾くよ」

    「きけば、あのおもちゃは君の息子に与えたそうではないか」

    「人、時間、そして金、親子そろっていくら使ったら気が済むのかね」

     

    第7話

    「いずれにせよ、使徒再来における計画スケジュールの遅延は認められん。予算については一考しよう」

    「ではあとは委員会の仕事だ」

     

    これらの会話から、委員会は一貫して資金について問題にしているのがわかります。

     

     

    「地上でやっている使徒の処理もただじゃないんでしょ」

    「ほんと。お金に関してはせこいところね。人類の命運かけてるんでしょ。ここ」

     

    「予算ね、じゃあ、司令はまた会議なの」

    「ええ、今は機上ひとよ」

    「司令が留守だと、ここも静かでいいですね」

     

    男「サンプル回収の修正予算、あっさりとおりましたね」

    碇「委員会も自分が生き残ることを最優先に考えている。そのための金は惜しむまい」

    男「使徒はもう現れない、というのが彼らの論拠でしたからね。」

     

     

    この会話からは、委員会がネルフの予算を管理していることに加え、シトが現れるまでは、金を惜しんでいた(少なくとも外部に対してはそのようなスタンスをとっていた)ことがわかります。また、国連の諮問機関であることから、費用は国連参加国に捻出させていることがわかります。このあたりの事情から、委員会のメンバーが大国(米英露仏など。この時点での常任理事国か。)の代表により構成されているのでしょう。

     

    大結論2 人類補完委員会は、NERVの監督及び予算確保が業務のメインである。

     

     

     

     

    <委員会はなぜゼーレと矛盾する発言を行ったのか>

    これまで見たように、委員会のメンバーはゼーレにも所属しております。しかしながら、補完委員会はゼーレの計画とは矛盾するような発言を外部に対しては行っていたことがわかっております。

     

     

    第7話

    男「使徒はもう現れない、というのが彼らの論拠でしたからね。」

     

    これはどう考えるべきでしょうか。

    ここで、ゼーレという組織が、自分たちの存在や力を、できるだけ隠そうとしていたことに注意しましょう。

    21話

    冬月「ゼーレの人間だけで構成すると怪しまれる。そのための飾りだろ、私は。」

     

    つまり、ゼーレとしては、自分たちの力により国連が動いていることを隠したかったのです。その点を考慮すると、ゼーレの息がかかっている委員会の見解が、表面的にはゼーレの見解と異なる点も想像できます。

     

    つまり、人類補完委員会のメンバーはゼーレに所属しており、その計画の遂行を目指しています。しかしながら、ゼーレの意志代行機関ということを外部に対しては悟られたくありませんでした。そこで、人類補完委員会の公式見解としては「使徒は2度と襲来しない」と言うものとし、NERVへの予算追加も、万が一のための保険としてしぶしぶ行う、というスタンスをとっておりました。

    その後、2015年の第3使徒襲来により、使徒の襲来がはっきりと誰にでもわかるようになったことで、各国の同意を得、NERVへの資金増強を大幅に行うことができるようになったわけです。

     

    結論

    委員会は、ゼーレの計画を国連を利用して遂行する(つまり、各国から費用を捻出させる)ための飾りである。国連の諮問機関でありながら、メンバーはゼーレで構成されていた。しかしながら、ゼーレという組織が国連を意のままに操っているという実態を見破られないように、委員会の公式見解としてはゼーレとは異なるものを採択した(シトはもう現れない)。

    その後、使徒が再来し、使徒の脅威を誰もが認識したのを確認した上で、委員会は自分たちの見解を撤廃し、使徒のせん滅を最優先課題とすることを各国にも納得させた。

    このような茶番劇を演じた上で、委員会は本来の予定通りに、ゼーレの計画を遂行していった(7話におけるサンプル回収予算を外部の者が驚くほどあっさり承認したこと、1台の修復でさえ国が傾くエヴァを急激に量産したことなど)。

     

     

     

     

     

     

    3.ゼーレという組織の概略(詳細は別途作成中)

    モノリス12体により構成された、謎の組織。001はキール。

    26話「ついに我らの願いがかなう。」

       「ジオフロントを真の姿に。」

       「エヴァシリーズを本来の姿に。」

       「人類に福音をもたらす、真の姿に。」

    「人類は、自らの手で贖罪を行わなくてはならん。」

     

    これらからわかるように、「福音」「贖罪」といった、宗教的タームが並んでいます。

    そして、贖罪し、福音をもたらすサードインパクトこそが、ゼーレという組織の真の狙いであったことがわかります。

    つまり、NERVおよびエヴァシリーズの建設は、彼らにとっては絶対に必要な事だったのです。

     

    「ゼーレのもつ死海文書。その記述に従えば、15年後、必ずサードインパクトは起こる。」

     

    17話

    冬月「ゼーレもあわてて行動表を修正してるだろう」

    碇「死海文書にない事件も起こる。老人にはいい薬だろう」

     

    ゼーレにとっての行動の指針は「死海文書」です。

    そのためにはエヴァは必要でしたし、シトの襲来はもちろん予定通りでした。

     

    また、国連に大きな力をもち、真実を公表する人間は殺す用意さえあります。

    冬月「それとなく警告も受けている。彼らにとって私を殺すのは造作もないことのようだ。」

    ユイ「簡単なんですよ。人を殺すのは。人類も。」

     

     

    1. 人類補完委員会とゼーレ

    <人類補完委員会とゼーレの比較>

    人類補完委員会  

    (公的には)万が一のシト再来に備え、実行部隊NERVの予算・業務管理を行う国連の諮問機関。常任理事国代表(?)により構成される。

     

    (実質的には)国連諮問機関という立場を利用し、ゼーレのシナリオを遂行するため、各国から費用を調達する。

     

     

    ゼーレ      

    国連を影で操る謎の組織。多くの人員が関わっているが、最上位にいるのはモノリス12体により表現される。

    死海文書の記述に従い、サードインパクトにより人類を贖罪させ、始源に回帰させるのが目的。

     

     

     

    <人類補完委員会のメンバーとゼーレとの関係>

    委員会のメンバーは、国連常任理事国(?)の代表である以上、それぞれの国において政治的な力をもつ人物であることがわかります。彼らがゼーレにも属しているということは、ゼーレの力が各国にも入り込んでいたことを示します。日本の内務省に所属する加持がゼーレの一員であったこともその一環です。

     

    人類補完委員会のメンバーはどこまでゼーレの行動表について知っていたのでしょうか。

     

    第14話

    委員「笑わせるな。事実の隠蔽は君の得意技ではないか」

    碇「タイムスケジュールは死海文書の記述通りに進んでいます」

    キール「まあいい。今回の君の罪と責任は言及しない」

    キール「だが、君が新たなシナリオを作る必要はない」

    碇「わかっております。全てはゼーレのシナリオ通りに」

     

    ゲンドウとキールは、委員会の中でゼーレの死海文書(シナリオ)について会話しております。これは、委員達がゼーレのシナリオを知っていたことを意味しております。

     

    しかしながら、

    第2話

    「使徒再来か」

    「あまりに唐突だな」

    「15年前と同じだよ。災いは何の前触れもなく訪れるものだ」

    「幸いともいえる。我々の先行投資が無駄にならなかった点においてはな」

     

    7話「シトはもう現れない、というのが彼らの論拠でしたからね。」

     

    という会話から

    人類補完委員会・・外部向けのアナウンスとしては、使徒はもう現れないと言っていた。これはゼーレとの関係を隠すための仮面である。

    しかしながら、メンバー自身も、彼らの会話からわかるように、使徒の襲来を本当に確信してはいなかった。また、2015年に使徒が再来することも知らされていなかった。セカンドインパクトが人為的なものであることすら知らなかった。

     

    ゼーレ・・死海文書の記述通り、2015年にシトは必ず現れる。それらを全て倒し、約束の日までにエヴァシリーズを本来の姿にする必要がある。

     

     

    以上のような違いが存在します。

    つまり、ゼーレという組織にも所属し、計画の一部(人類補完計画と呼ばれているが、実質はE計画+アダム計画+αか)は知りつつも、詳細は理解しないままにゼーレの計画を遂行しようとしている委員達という構図が浮かび上がります。

     

     

    <思想の違い>

    委員会は

    15話「被害は甚大だ」

    「あれは君の国の船だろう」

     

    というように、国籍意識というものが、多少なりとも存在します。

     

    ゼーレの老人達12人にあるのは、宗教的な無への回帰の願望です。

    「人類は、自らの手で贖罪を行わなくてはならん。」

     

    国籍意識というものは感じられません。

     

    同じゼーレという組織の中でも、委員会のメンバーと最高幹部である12人のメンバーとの間には、知識とともに、思想的なものでも大きな溝が感じられます。

     

    では、なぜ委員会のメンバー(もっと広く言えば、ゼーレに協力した多くの人々:葛城博士なども含む)は、真相を知らされていないにも関わらず、ゼーレの目的実現に協力していったのでしょうか。

    葛城博士など、セカンドインパクト以前から協力していた人々は、学究的興味を満足させてもらえる環境があったためでしょう。

    セカンドインパクト以降に協力した人々には、ゼーレが言うように使徒が再び現れる可能性は捨てきれないという認識があったはずです。

    第2話

    委員「ネルフとエヴァ、無駄にはなりませんでしたな」

     

    使徒の再来に備え、ゼーレの言うように準備する必要はあったはずです(E計画など)。

     

    もうひとつには、ゼーレの圧倒的権力があります。

     

    冬月「それとなく警告も受けている。彼らにとって私を殺すのは造作もないことのようだ。」

    ユイ「簡単なんですよ。人を殺すのは。人類も。」

     

    もし、ゼーレに刃向かえば命を失う結果となるでしょう。

     

    このように、ゼーレの計画をある程度知り、それに違和感を覚えつつも、一応ゼーレに従って動くという人間は非常に多数存在すると思われます(ネルフだけで考えても冬月、ユイ、ゲンドウ、加持などがいます)。他に、ゼーレのことは良く知らないが、人類補完委員会という国連諮問機関を信頼して、人類のためと考えて計画に携わっていた人間はもっと多数いるでしょう(ミサトらのネルフスタッフなど)。

     

    結局、ゼーレは、みずからの真の目的は隠したまま、相手により様々な動機を餌として、多くの人々を使う事に成功したわけです。

     

    5.キールの役割

    人類補完委員会の議長にして、ゼーレでも001の立場にいるのがキールです。彼は何のために、目的も性格も全く異なるこの両組織に所属しているのでしょうか。

    以下、委員会の他のメンバーと、キールとの発言の違いを見てみます。

    <ゲンドウへの対応>

    第10話

    委員「A-17 こちらから打って出るのか」

    碇「そうです」

    委員「だめだ。危険すぎる。15年前を忘れたとは言わせんぞ」

    碇「これはチャンスなのです。これまで防戦一方だった我々が初めて攻勢にでるための」

    キール「リスクが高すぎる」

    碇「しかし、生きた使徒のサンプル。その重要性はすでにご承知のことでしょう」

    キール「失敗は許されん」

     

    初の、シトの捕獲が論議となったこの会話では、ゲンドウの案に対し、委員の一人は即座に拒絶しております。しかし、キールは、「リスクが高すぎる」「失敗はゆるされん」と言いつつもゲンドウの案を基本的に承認しています。これは、ゲンドウの案が委員会の見解よりもゼーレにとって評価するべきものであったということです。また、他の委員がはっきり拒絶したにも関わらず、キール発言後は誰も何も言わなかったことからみて、他の委員とキールとの力関係がわかります。

     

    第14話

    碇「委員会への報告は誤報。使徒侵入の事実はありませんが」

    キール「では碇、第11の使徒侵入の事実はない、というのだな」

    碇「はい」

    委員「気をつけてしゃべりたまえ、碇君。この席での偽証は死に値するぞ」

    碇「マギのレコーダーを調べてくださっても結構です。その事実は記録されておりません。」

    委員「笑わせるな。事実の隠蔽は君の得意技ではないか」

    碇「タイムスケジュールは死海文書の記述通りに進んでいます」

    キール「まあいい。今回の君の罪と責任は言及しない」

    キール「だが、君が新たなシナリオを作る必要はない」

    碇「わかっております。全てはゼーレのシナリオ通りに」

     

    第11使徒の侵入についても、他の委員が厳しくゲンドウを追求するにも関わらず、キールは何も非難がましいことはいいません。それどころか、ゲンドウの罪と責任の追求を止めさせるなど、事実上かばってさえいます。

     

     

    以上見てきたことからわかるのは、

    などです。

     

     

    つまり、キールは、NERVへの風当たりが強い委員会にあって、その議長をつとめ、NERVがゼーレの野望にそって計画を遂行できるように委員会を誘導しているのです。

     

    なぜ、キールにがゲンドウらを他の委員といっしょに責め立てないかというと、結局、他の委員はゼーレの真実・真の目的などを理解していないからです。

    別な面から言うと、他の委員はゼーレの究極の目的を知らないために、キールの判断に口を挟みようがないのです。他の委員は、自分たちの持っている情報から発言しているにすぎません。

     

    これが

    14話冬月「文句を言う事だけが仕事のくだらん連中だ」

    と委員がいわれる所以です。

    また、ゲンドウが委員から強く非難されると、「死海文書のスケジュールにそっている」といって抗弁するのも同じ理由です。

     

    キールは実際はゲンドウにかなりいらついていました。

    14話冬月「昨日、キール議長から連絡があったぞ。俺のところに直接な。かなりいらついていたぞ。しまいにはおまえの解任までほのめかしていたぞ。」

     

    しかしながら、補完委員会の場では一度もそのようなそぶりを示さなかったのは、委員会のメンバーが、所詮真実を知る権利のない人々であったからです。委員達は、ゼーレの中ではそれほど高い位置にはいないのでしょう。

     

     

     

    結局、人類補完委員会は、ゼーレが自分の計画を影で遂行するための、隠れ蓑であるということが出来ます。委員達はネルフを非難することはできても、ゼーレの真実を知らされていないため、ゼーレやキールを非難することはできません。

     

     

              

    1. ゼーレの登場

    人類補完委員会という機関を形式的に利用し、それまでは表にでてこなかったゼーレが、委員会を介さず直接ゲンドウや冬月とやりとりをするようになるのは、21話からです。これは、もちろん、エヴァの覚醒およびS2機関の取得という、大幅に死海文書のスケジュールからはずれた事態の勃発により、多大なる危機感を抱いたせいです。

    委員会経由ではなく、直接尋問を行うことにより、ゲンドウの真意を見きわめようとします。

     

    そして、22話において、急遽エヴァの増産が世界中で始まります。これは、ゲンドウを信用できないと考えたゼーレ(もちろんキール含む)が、ゲンドウに自分たちの計画を壊されないようになりふりかまわず動いた成果だと思われます。

    ゼーレが、事態に気づいたときには、

    14話ゲンドウ「切り札足るものは、全てこちらが擁している。彼らは何もできんよ」

    という言葉どおりになっていたからです。

     

    キール「碇め、ゼーレを裏切る気か」

     

    この事態を打開するためにゼーレが行った一連の行動が、

    21話・・委員会を通さず直接ゼーレが動き出す。まずは冬月誘拐による尋問、裏切り者(加持)の処刑

    22話・・エヴァの大量増産。

    24話・・最後の使徒(カヲル)をネルフに差し向ける。

    25話・・国連軍及び9台のエヴァによるネルフ攻撃、占拠。

    26話・・サードインパクト。

     

    国連の諮問機関である人類補完委員会にはありえない圧倒的な行動力で、ゲンドウ、冬月らの準備が整わないうちにケリをつけようとしたのです。

    25話冬月「無茶しおる」

    「大げさすぎるな」

    「まさか、ここで起こすつもりか」

     

    その行動力は、冬月らでさえ想像できなかったものでした。

     

     

    まとめ

    ゼーレが計画を実行するために、国連の主導という名目のもと、予算確保するための組織が人類補完委員会である。委員会のメンバーは大国から選出され、ゼーレにも所属していた。

    委員会のメンバーはゼーレの一員であり、ある程度シナリオについても知っていた。しかしながら、ゼーレという組織が国連を意のままに操っているという実態を見破られないように、委員会の公式見解としてはゼーレとは異なるものを採択した(シトはもう現れない)。

    その後、使徒が再来し、使徒の脅威を誰もが認識したのを確認した上で、委員会は自分たちの見解を撤廃し、使徒のせん滅を最優先課題とすることを各国にも納得させた。

    このような茶番劇を演じた上で、委員会は本来の予定通りに、ゼーレの計画を遂行していった。

    しかしながら、ゲンドウが独自の計画を進めており、後手に回ってしまったことに気づいたゼーレは、委員会という仮面を使うのを止め、直接国連を動かし、なりふりかまわずゲンドウの動きを阻止し、自分達の目的を実現すべく、その本性を発揮、ゲンドウや冬月らでさえ予想できなかった圧倒的な行動力で、サードインパクトを一気に発動させた。

     

     

    (参考)

    参考までに、脚本段階からの人類補完委員会とゼーレの関係の変遷を見ますと、

    脚本版第2話

    C「まさか、再び現れるとはな」

    A「だが、皮肉なことに我々は、この時のために巨額の先行投資をしている」

    D「左様。現れませんでした、ではすまされませんぞ」

    B「ネルフとエヴァ、無駄にはなりませんでしたな」

    キール「そいつはわからんよ。役に立たなければ、同じことだ」

     

    この会話からは、委員会が、シトは再来しないと基本的に考えていたことが読み取れます。あくまでも、万が一のシトの再来に備えての、人類補完委員会だったわけです。

    第7話

    男「サンプル回収の修正予算、あっさりとおりましたね」

    碇「委員会も自分が生き残ることを最優先に考えている。そのための金は惜しむまい」

    男「使徒はもう現れない、というのが彼らの論拠でしたからね。」

     

    このセリフも、先ほどのセリフと同じ流れで考えられます。つまり、委員会は「使徒はもう現れない」と考えており、万が一のために備えていたので、実際現れた時には「まさか、再び現れるとはな」というセリフになったわけです。

     

    シンジ「どうしてもっとエヴァをいっぱい造らないんですか。沢山あればより確実に使徒を倒せるのに」

    ミサト「シンジ君。エヴァ一体造るのに、いくらかかると思う」

    リツコ「腕一本修理するだけでも、小さな国なら半年食えるわ」

    リツコ「それに造るだけじゃだめなの。ちゃんと維持しないと。ネルフの予算も無限じゃないのよ」

    マヤ「人類の命運をかけてるといってる割にセコイでしょ。上でやってる使徒の処理もただじゃないしね」

    ミサト「それだって委員会の了承とるの、大変だったそうよ」

     

     

    このように脚本段階においては、委員会はあくまでも国連の組織であり、その立場から、人類の生き残りを目指しております。そのため、ネルフへの支出は必要最低限に抑えたいと考え、使徒の襲来にも驚きを示す人々なのです。

     

     

    一方、ゼーレは、脚本や絵コンテにおいては、「エッセネ」という表現を何度か与えられています。エッセネとは、もちろん死海文書に関係するユダヤ教の一派です。

     

    つまり、人類補完委員会は国連組織であり、ゼーレは宗教結社であるという区別が、比較的明確になされています。

     

    このような設定が、後に変更され、人類補完委員会のメンバーも、ゼーレのシナリオをある程度認識している人々(ゼーレに所属している人々)となります。

    脚本版第2話の「まさか、再び現れるとはな」というセリフはテレビでは「使徒再来か」「あまりに唐突だな」という発言に置き換わり、第15話では「我らゼーレのシナリオにはない出来事だよ」と言っております。

     

    おそらく、当初純粋に国連の諮問機関として設定されていた委員会は、後に変更され、ゼーレにより近い位置づけになったのではないでしょうか。

     

    (企画・脚本のある時点まで)

    ゼーレ:人類補完委員会=宗教結社:国連機関

    (テレビ)

    ゼーレ:人類補完委員会=謎の秘密結社:国連の機関だが構成員は秘密結社に所属

     

    例えばテレビ版において、

    委員会の無知を示す(ゼーレのシナリオを知らないかのような)発言:

    2話「使徒再来か」「あまりに唐突だな」

    7話「使徒はもう現れない、というのが彼らの論拠でしたからね。」

     

    委員会がゼーレのシナリオを知っている発言:

    15話「我らゼーレのシナリオにはない出来事だよ」

     

    この2種類の発言に整合性をもたせて理解しようとしたのが、本文の解釈ですが、この混在は、もしかすると、もともとは委員会の設定変更に伴う混乱から生まれたものかもしれません。

     


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