カリオストロの城の真実

第一章 カリオストロ、アルセーヌ・ルパン、ルパン三世、宮崎駿監督の関係


映画「カリオストロの城」と、アルセーヌ・ルパンの関係について、宮崎監督は、小説「緑の目の令嬢」と、小説「カリオストロ伯爵夫人」の2作品をベースにしていると語っている。(カリオストロの城大事典およびカリオストロの城アニメ・ムックのインタビューより)

この発言は有名だが、その意味を真面目に考察されたことはなかったと思われる。

一般には、以下のように言われている。

・「緑の目の令嬢」からは、一部の登場人物の名前と、最後に古代ローマの遺跡が湖から現われるラストが「カリオストロの城」に使われた。

・「カリオストロ伯爵夫人」からは、クラリスやカリオストロというネーミングを使った。


つまり、アルセーヌ=ルパンの原作から、演出上の小道具として、名前や舞台を「カリオストロの城」は使っているということである。

しかしながら、本当にそうだろうか?

以下では、アルセーヌ=ルパンのこの2作品をベースにしていることが、「カリオストロの城」の本質的な特徴であり、宮崎駿監督がルパン三世を作るのをやめていくことにも密接につながっていくことを示したい。


もともと、カリオストロは18世紀の実在の人物であった。
彼は、怪しげな魔術を用い、自分は不老不死だと言って宮廷の注目を浴びていた。

彼は最後は牢獄で死ぬことになるのだが、彼の不老不死伝説を巧みに取り入れたのが、モーリス・ルブランが書いた、アルセーヌ=ルパンの小説、「カリオストロ伯爵夫人」であった。

ここでは、歳をとらない美女「カリオストロ伯爵夫人」が登場し、アルセーヌ=ルパンと対決することになる。

ここで注目したいのは、この作品が書かれたのは既にルパンシリーズが人気をえて、主に30代〜40代のルパンを10作以上執筆された後であり、この作品では、それまでと違って主人公のルパンの年齢を20歳の若い頃の冒険に設定されていることである。


つまり、カリオストロ伯爵夫人におけるアルセーヌ・ルパンは、通常のルパン・シリーズと異なり、ルパンがごく若い時の物語として描かれた。

20歳の向こう見ずで、ハングリーで、男爵の令嬢クラリスと情熱的な恋愛する男・・


ところが、この翌年に書かれた「緑の目の令嬢」では、ルパンの年齢は30代なかばの設定に戻っている。


そして、そのラストでは、その物語の美少女オーレリーと、お互いに心ひかれながらも、もはや恋愛に踏み込むより、自分の良い印象だけを残して去ることを選ぶ男として描かれている。(この点、カリオストロの城におけるルパン三世と同じである)
(注:翻訳により多少話しが違っています)

以上、若干長い説明になったが、「カリオストロ伯爵夫人」「緑の目の令嬢」という作品に流れる問題の本質は、主人公であるアルセーヌ・ルパンの年齢による変貌である。

20歳で恋と野望に燃えていたルパンと、30半ばをすぎ、もはや、自分の恋心の成就よりも、少女に好印象だけ与えて去ろうとするルパン。



この2作が続けて書かれたことは偶然ではないし、敵のカリオストロ伯爵夫人が永遠の若さをもつと言われていることも偶然ではない。

この時期のアルセーヌ・ルパンのテーマ設定の深層は、年齢を加えることの意味である。


それは、後にかかれた続編「カリオストロの復讐」では、ルパンが50歳になろうとしていることからもわかる。


これらの点について、宮崎監督はこういっている。

「(カリオストロの名前は)カリオストロ伯爵夫人っていいう小説からきているんです。モーリス・ルブランの作品にね、ルイ14世だか16世だか忘れましたけど、そのころの宮廷に現われて不老不死の薬を売りつけようとしたペテン師がいることになってる。

初代のアルセーヌ・ルパンの敵なんですけど、絶世の美女でね。一時は怪盗として売り出す前の若いルパンが惚れてしまうんです。

そんな話があって、映画のためにヨーロッパの王国をでっちあげるときにカリオストロって言葉の響きが何かこう意味ありげでいい。それで使ったんですよ。」

ここでいう意味ありげの真意は、売り出す前の若いルパン不老不死の対立という点から解釈したい。
それでこそ、以下の言葉の意義もわかる。


(「緑の目の令嬢」および「カリオストロの復讐」についての説明:アニメージュより)
宮崎 「ル・ブランのルパンは、みんな美女が出てくる話なんですね。
岡田 「毎度毎度、性コリもなく恋をするんですね。
宮崎 「そうそう(笑)。自分がおじいさんになると、かわりの若者を出したりして(笑)」


宮崎駿監督が、アルセーヌ・ルパンの「カリオストロ伯爵夫人」や「緑の目の令嬢」から得たインスピレーションの本質は、年齢の問題であり、売り出そうとやっきになる若者が、いつ、自分で恋をすることをやめ、おじいさんに変貌せざるをえなくなるのかという問題であった。

このことを念頭において、第二章を読んで欲しい。


いよいよ、ルパン三世の話にはいる。


 

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