Zガンダムにおけるパラス・アテネについて
パラス・アテネは、シロッコが製作したモビルスーツである。
なぜ、彼は「パラス・アテネ」という名前をつけたのだろうか?
シロッコ「次は・・女の時代がくる。」
自分を歴史の立会人にしかすぎないと考えていた彼は、来るべき時代として、「女」による癒しの時代を予感した。
彼の予言どおりに、ガンダムの世界は動く。
Vガンダムによるマリア崇拝の発生とエンジェル・ハイロゥによる人類の退行化計画、ターンエーガンダムにおける千年女王ディアナ・ソレルの誕生につながるまで、まさに「女」と「癒し」を軸に、数千年の歳月をかけてガンダムの世界は展開していくことになる。
その、「女の時代」の予感を形にしたのが、シロッコのこの「パラス・アテネ」であった。
言うまでもなく、パラス・アテネとは古代ギリシアにおける知恵と闘いの女神である。
かつてパルテノン神殿の中には、女神パラス・アテネの巨大な金色の立像が作られていた。
パラス・アテネの復元イメージと現在のパルテノン神殿
私は、以前から、モビルスーツ パラス・アテネの色が何故緑なのか不思議だった。
アテネにあった巨大なパラス・アテネの像と同じように、金色に輝くべきではないか?
もしくは、古代ギリシアのアテネのレリーフのように、白色にするべきではないか?
緑色のパラス・アテネは、私には魅力が感じられなかった。
しかし、先日、たまたまパラス・アテネのおもちゃを貰った。
その立体模型を眺めて、よく見ればパラス・アテネは、とても魅力的な造形をしていることに気づいた。
アテネの街をバックにしたパラス・アテネ
細いシルエットながらも、女神パラス・アテネ同様、モビルスーツ パラス・アテネも巨大な盾を持ち、女神の長大な槍は重火器に置き換えられている。
TV版Zガンダムでは、最終的にティターンズを壊滅させたのは、レコア・ロンドの乗るパラス・アテネであった。
これは、もちろん、ギリシア神話におけるティターンズ(巨人族)と戦ったパラス・アテネの故事からきている。
さて、小説版Zガンダムでは、パラス・アテネは実はサラの機体であった。
これは、おそらく、サラの少女性から、処女神としてのパラス・アテネへのつながりからだろう。
しかし、TV版Zガンダムでは、パラス・アテネはレコア・ロンドのものとなった。
そして、男への怒りと復讐の女神という役回りを、レコアのもとで担うことになった。
自分に辱めを与えた地球連邦軍、屈辱を与えたティターンズ、道具としてしか自分を見なかったシャアを始めとするエゥーゴの男達・・
皮肉なことに、男達への怒りを原動力としたパラス・アテネは、同じ女性であるエマとの戦いの中で破壊される。
そして、女性による地球支配をもくろんだシロッコの早すぎた野望は挫折する。
その数十年後(Vガンダム)にはマリア主義が生まれ、数千年後にはディアナの時代がくる(ターンエーガンダム)ことを踏まえると、シロッコの予言は正しかったと共に、あまりに時の流れに先んじていたことがわかる。
さて、もうひとつ注意しなくてはいけないことは、、同じ女性といえども、レコアには、マリアやディアナのような、人々の心を捉える「癒し」的な力はあまり感じられない点である。
これは、パラス・アテネが、戦いの女神であり、癒しの女神ではないことを連想させる。
下は、クリムトが描く女神パラス・アテネである。
どこか、怖ろしい、死の女神であることを感じさせるだろう。
戦いを好んだ女神パラス・アテネは、「Zガンダム」という主要人物の多くが戦場に散ってしまう「修羅の連続」(企画書より)の作品にこそ、ふさわしい。
その意味で、危険なことが好きなレコアと、モビルスーツ パラス・アテネの組み合わせは、癒しの時代の女神になることよりも、戦場で散ることが似合っていたのかもしれない。
まさに、時代の移行期における、「刻(とき)の涙」というのがふさわしいモビルスーツである。
個人的には、一度、女神パラス・アテネになぞらえて、白色系か、黄金系の着色でパラス・アテネのプラモデルを作ってみたいと思っている。
<参考>パラス・アテネを味わうためのプラモデルとゲーム