シャア・アズナブル論 第一章
第一章 パイロットではなく、暗殺者としてのシャア
「謀ったな!シャア!」(byガルマ 機動戦士ガンダムより)
モビルスーツの抜群の使い手であり、「赤い彗星」という異名をとる男、それがシャア・アズナブルである。
モビルスーツのパイロットとしての彼の特徴の一つは、とにかく目立たせることである。
1年戦争においてはマシンを赤く塗り、グリプス戦役においては金色に塗った。
なぜ、彼は自機をそこまでして目立たせたいのか?
この問題は、同時に何故彼は顔を隠すのかという問題ともつながるのは明白であろう。
なぜ、彼は素顔を隠し、モビルスーツを目立たせるのか?
これは、もちろん、1年戦争においてはザビ家に近づき、ザビ家を倒すためである。
彼がモビルスーツを目立たせるのも、そこで戦功をあげることにこだわるのも、
そして素顔を隠すのも、基本的には、全て自分の真意であるザビ家打倒のカモフラージュにすぎない。
では、彼は自分の真意をどのように実現するか?
・ガルマに対しては、偽の情報を与え、敵のせいにして殺す。
・キシリアに対しては、戦場のどさくさにまぎれて暗殺する。
つまり、彼は、本気で殺したい相手に対しては、決してモビルスーツで戦うことをしない男なのだ。
そのような、昔の騎士のようなやり方はしない。
殺すことが目的であれば、モビルスーツに乗るよりも、もっと簡単で確実な方法がいくらでもあると考えているのである。
これは、Zガンダムでも同じである。
エゥーゴがジャブローに侵攻を決めたとき、彼は一人反対する。
「ならば、ティターンズの黒幕といわれているジャミトフ・ハイマンを暗殺する計画を予定した方がいい」(小説版Zガンダム)
彼の意見は却下されるが、彼の基本的考えは変わらない。
後にジャミトフの顔を見るために地球に下りる。(TV版Zガンダム24話)
そして、キリマンジャロ作戦の時は、モビルスーツで戦うことよりもジャミトフを暗殺することを一人考える。(TV Zガンダム38話)
「できればジャミトフに会いたいと思ってな」(シャア)
このセリフは小説版のものだが、TV版でも小説版でも、シャアが百式から降りて、あえてキリマンジャロ基地に潜入する理由は、ジャミトフ暗殺以外にはないだろう。
そして、基地内でジャミトフを見つけ、発砲する。(失敗するが・・)
このスタンスは、ハマーンに対しても、シロッコに対しても同じである。
カツがシロッコとハマーンの命を絶とうとグワダンに潜入したとき(Z46話)、
「それは私の役目だ」と言って、シロッコ、ハマーン、ジャミトフの会見場に入り込み、シロッコの腕に怪我を負わせる。
つまり、「機動戦士ガンダム」におけるザビ家に対しても、「Zガンダム」におけるジャミトフ、ハマーン、シロッコに対しても、シャアが常に考えるのは、「暗殺」なのである。
正規の物語でシャアの暗殺傾向が見えるのはここまでだが、実際はもっと深いものがある。
例えば、TV版ではシャアが出ないことになったため物語が変わってしまったが、企画段階の「ZZガンダム」においては、シャアの役目とは、アクシズに寝返り、ハマーンと協力しながらも、土壇場ではハマーンを殺す役目であった。
これはまさに「機動戦士ガンダム」同様、ザビ家に協力するふりをしながら、ザビ家を殺したのと同じである。
さらに、富野監督はこうも言っている。
「シャアが”悩む”ということから脱してしまったとしたら、彼は途方もなく強いでしょう。どれ程強いか、というとそれこそ物語があっと言う間、「ZZ」なんかは5本もいらずに終わってしまう程でしょうね。」
「まず、アムロなんかは、何も知る前に殺されてしまうでしょうね。それ程、強いです。」
ここで言う「何も知る前に」アムロが殺されるということが、暗殺のことを意味しているのは明白であろう。
シャアは、本気で相手を殺したい時は、決して目立つモビルスーツなどに乗らない男なのだ。
目立つモビルスーツに乗るときは、常に別のことを考えていて、自分の真意をカモフラージュしているにすぎない。彼が仮面をつけたり、サングラスで顔を隠すのと同じである。
・ジオン軍に所属しているときは、ザビ家の破滅をたくらむ。
・エゥーゴに所属しているときは、ジャミトフの暗殺を考える。彼は、本当はエゥーゴのメンバーと共にモビルスーツで戦うことをとても歯痒く思っていたいに違いない。
・「ZZ」では出番はなくなってしまったが、企画案どおりに進めば、ハマーンの仲間としてと共に(また派手なモビルスーツで)戦い、そして隙を見て(銃で)ハマーンを殺しただろう。富野監督が言うように、「ZZ」が全5話の作品ならそうだったかもしれない。(実際は当初2クールの作品で考えれらていたものが、4クール放映となった。2クールで終わっていたら、シャアが登場し、決着をつける話になったかもしれない)。
ハマーンを銃で殺す意思は「Zガンダム」でも既に見せていた。
そして、もし、「逆襲のシャア」で、シャアが本気でアムロを殺そうと考えていれば、それこそ、「何も知る前に」アムロは死んでいただろう。もちろん、モビルスーツで戦いなどしない。
以上、見てきたように、シャアがモビルスーツを優雅に動かすのは、あくまでも外部向けのカモフラージュにすぎない。全てが演技なのである。
「たいした役者だよ、シャア!!」(byハマーン Zガンダム50話)
彼は、本気で相手を殺したい時、組織を壊滅させたい時は、常に暗殺を計画する。
そのやり方は、相手の仲間になったと見せかけて、隙をみつけて殺すというやり方だろう。
では、次に、何故彼がそのような人間になったのかを考える。